ビオとビオコントロールはまったく違う考え方で成り立っている
biocontrôleビオコントロールは頭に”bio”と付くものの、フランスの法律の中で、bioビオ(agriculture biologiqueアグリキュルチュール・ビオロジック(有機農業))とビオコントロールは個別のものとして存在しています。
bioビオの法律上の条件を発展させたのがビオコントロールなのかなと考えると混乱しますが、関連性はなく、別の考えに則って出来上がったと捉えた方が理解しやすいでしょう。
そのため、ビオコントロール製品の中には、ビオでは使用できないものがあり(例:ミルデューに対する亜リン酸塩ベースの製品)、逆にビオでは使用可能でも、ビオコントロールのリストには入っていない製品もあります。(例:ボルドー液はビオコントロールとしてリストアップされていない)。
その前提の上で、ビオとビオコントロールには共通した製品も存在している、そんな関係です。
bioビオとbiocontrôleビオコントロールの違い
ぶどう栽培における、bioビオ(agriculture biologiqueアグリキュルチュール・ビオロジック(有機農業))とbiocontrôleビオコントロールの間で、最も分かりやすく違う部分は、銅を使っていい・いけないの違いでしょう。
bioビオ(有機農業)ではボルドー液を使っていいのに対して、biocontrôleビオコントロールのリストにはボルドー液は登録されていません。
biocontrôleビオコントロールでは、環境へ影響がある成分は基本的に禁止ですが、ボルドー液の原材料である硫酸銅(II)(化学式 CuSO4)は水生環境(水生生物およびその生態系)に悪影響を及ぼす危険性がある物質の劇物に指定されているからです。
銅と生き物
銅は、私たち動植物にとっての必須栄養素であり、欠乏すると生きていけない元素である一方で、大量に摂取しすぎても、その環境に多量にありすぎても生きることができない物質です。
現在フランスのぶどう畑では、1haあたり7年間で28kgの銅の散布が認められています。この範囲内で散布されているのであれば、ボルドー液が残留したワインを飲んでもヒトへの危険性はないとされる、そのくらいの量です。また、フランスのワイン産地の初秋の降雨量は多いので、実質的には最終散布から収穫までに流れてしまう分もあります。
しかし、銅はベト病の原因菌plasmopara viticola(プラスモパラ・ヴィティコラ)に対する殺菌効果がある通り、いくつかの種類の微生物にとっては生きる上で不都合な物質です。(銅がベト病の原因菌に対してどのように作用するかについては、こちらに書いてあります。)
ぶどう栽培のbioビオは持続可能な農法なのか問題
戦後、収穫量を安定させるために農薬を使った農業が主流になり、ぶどう畑では対ベト病の農薬として一般的に散布されるようになったボルドー液ですが、その後、多くの生産者がより効き目の強い合成化学農薬に移行しました。そしてこの30年ほどで、農法をbioビオに切り替えるかたちでボルドー液に立ち返る生産者が増えてきています。
農薬散布のタイミング・回数を完全に逸したために壊滅したアリゴテの区画。果粒の色は色づいているわけではなく、ベト病の症状の1つ。
ベト病の存在しない環境で進化してきたヴィティス・ヴィニフェラは、この病害に対する抵抗力がほぼないため、なんらかの対策をしないと収穫量が壊滅する可能性があります。そのため、ビオでは”苦し紛れ”にボルドー液を使用可能としています。合成化学農薬と違い、銅も石灰ももともと自然界にある成分だというのが、理由の一つです。
しかし一方で、最近になって今までボルドー液として撒いてきた銅が、土壌の中に溜まっていたということがCristiano Ballabio氏らの調査でわかりました。
Fig. 7. Map of topsoil Copper concentration (mg kg-1).
出典 : C. Ballabio et al. / Science of the Total Environment (2018) P.293
こちらは、欧州諸国の表土中の銅濃度マップです。
論文内には銅の生物への影響についてや、土地の使用目的別の銅濃度の表もあるので興味のある方はぜひ。
土壌中の高濃度の銅から微生物の多様性を守りたい生産者は、ボルドー液の使用をどうにかして減らそう、使用をやめられないかと考えています。
また、SDGsが掲げる「持続可能な農業」「生物多様性の損失の阻止」「土地と土壌の質の改善」に鑑みた時に、ボルドー液の使用は控えるべきだと考えた場合、代替としてビオコントロールの製品が登場していると捉えることもできます。
土壌中の銅濃度の上昇
ボルドー液はぶどう樹の葉・茎・房にまんべんなく散布されます。雨に打たれると流れてしまうため、頻繁に雨が降る年は夏の中頃まで週に1度散布されます。雨に流されたボルドー液の成分は土に落ちます。その銅が土壌の中に溜まり、年々濃度が高まっていくというわけです。
銅は金属としては軽い部類に入るので、希望的観測的に雨に流されて地下水そして川へと流れて土壌には留まらないだろうと考えられていました。しかし、ほぼそのままの量が土壌中に留まっていたという調査結果が出たわけです。ヨーロッパで広く細かくサンプルがとられていますが、ぶどう畑の土壌の銅濃度は抜きに出ています。
簡単に下げることのできない銅濃度が、このまま上がり続け、その土壌に住む生物の生態系を脅かすのでは、いや、もう多様性は失われてしまったのでは?と危惧するひとたちが試行錯誤しているところです。
もちろん、この調査を鵜呑みにしない人、銅が高濃度でも微生物や栽培には影響しないと考える人、土壌中の微生物を重要視しない人、持続可能という言葉に興味がない人など様々です。しかし、AOC法に則ってワインを生産している以上「この村以外でこの村のワインを作ることができない」という笑っちゃうほど単純な事実が、所有している区画の土壌を維持していくことへ大きな動機になっていることも確かです。
銅の必要性とビオコントロールの段階的導入
ただ、合成化学農薬にも、銅(ボルドー液)にも頼らないぶどう栽培というのは、フランスにおいて現時点では簡単でないことも確かです。
とくに、湿度と気温の両方が高い状態が長く続くせいで病害蔓延のリスクが非常に高い、いわゆる”難しい年”や”難しい畑”の場合、農薬の効果が低いと収穫量が0になりうるからです。(実質的には、農薬の効き目の強弱と散布のタイミングと頻度が組み合わさり、効果が決まります)
現状フランスの国としてはビオコントロール製品の普及を目指してはいても、既存の農薬をビオコントロールの製品に100%一気に切り替えることの危険性も認めています。(そのため新製品の開発にも力を入れているようです。)
そこで、初めは限られた面積の畑で実験することが推奨されています。その区画で行っている栽培方法・密植度・環境・セパージュに対して、現在使用中の農薬と、交互に使うことで使用量を半分にしながら、収穫量が確保できるかを使用量にバリエーションをつけながら、簡単な年、難しい年を経験しながら、ビオコントロールの製品を最大限使える落とし所を探っていくということです。
次回、対ベト病と対うどん粉病のビオコントロール製品を見ていきましょう。
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