消えてなくなる石灰質。石灰岩と石灰岩質土壌のふしぎな関係

さて今日は、石灰岩石灰岩質土壌の関係について見ていきますが、石灰質の面白いところは水に溶けて綺麗さっぱりその場所からなくなってしまえるということろです。なので石灰岩に含まれている成分の比率そのままに石灰岩質土壌が出来上がるわけではないんですね。そもそも石灰質とは何なのかというところから、詳しく見ていきましょう。

石灰質の定義

石灰質とは、カルシウム原子1つに炭素原子1つと酸素原子3つがくっついた分子CaCO₃で、炭酸カルシウムとも呼ばれます。

石灰質とは、カルシウム原子1つに炭素原子1つと酸素原子3つがくっついた分子CaCO₃で、炭酸カルシウムとも呼ばれます。

石灰岩は厳密な定義でいうと、95%以上が石灰質でできた岩

なので、石灰岩はカルシウムの塊なんだということですね。じゃあ、石灰岩を構成している残りの数パーセントの要素って何があるのかというと、砂・シルト・粘土です。中でもよく見られるのが粘土質です。

穏やかな海の中で石灰質が沈澱しているところに混ざって、粘土質も一緒に堆積していったところを想像するとわかりやすいと思います。そうやって一緒に堆積した、石灰質と粘土質の比率によって岩を5つに分類することができます。

石灰岩・マルヌ・粘土岩の関係

 

石灰質の比率の高い方から、石灰岩、粘土質を含んだ石灰岩、石灰質と粘土質が半々だとマルヌ・泥灰(でいかい)と呼ばれて、さらに石灰質の比率が減っていくと、石灰質を含む粘土岩、わずかな石灰質しか含まないと粘土岩に分類される

石灰質の比率の高い方から、石灰岩粘土質を含んだ石灰岩、石灰質と粘土質が半々だとマルヌ泥灰(でいかい)と呼ばれて、さらに石灰質の比率が減っていくと、石灰質を含む粘土岩、わずかな石灰質しか含まないと粘土岩に分類されるということですね。この数値は専門家によって変化する場合があるんですけど、ここではブルゴーニュ大学の授業で先生たちが使ってる数値を載せてます。

広い意味での石灰岩

そして、こういった厳密な定義ではなく、たっぷり石灰質が含まれてるんだからマルヌも大まかに言って石灰岩の括りだよねという捉え方もあります。粘土質が半分入ってるけど、半分は石灰質だから石灰岩って呼んじゃうよということです。

例えば、ブルゴーニュのコート・ド・ニュイの特級畑の母岩には6種類あるんですけども、6個とも全部この広い意味での石灰岩です。つまり、その石灰質の含有量はさまざまでこの図のどこかに当てはめることができます。それぞれの石灰岩に固有名詞がついていて、シャンベルタンには3つの母岩とか・・、石灰岩の話をし始めると止まらなくなって危険なので土の話に入っていきましょう。

石灰岩が風化してできる土壌、石灰岩質土壌とは

石灰岩が風化する中で、生き物・有機物・水と空気が混ざり込んで出来上がるのが石灰岩質土壌です石灰岩が風化する中で、生き物・有機物・水と空気が混ざり込んで出来上がるのが石灰岩質土壌です。

その風化の最中に、石灰質は水に溶けて地下水になってこの場所からどんどん失われていきます。一方で、石灰岩に含まれていた粘土質がこの場所に残るということが起こります。もちろん粘土も粒子が細かいですし軽いので、風に飛ばされたり水に流されたりしてこの場所から無くなってはいくんですが、石灰質よりはここに留まりやすいし、ここより低い場所に運ばれて留まりやすい。

例えば99%石灰質で残り1%が粘土質という、すごく純度の高い石灰岩があったとして、この石灰岩が風化してできた土壌を観察すると、石灰質が20%で粘土質が80%になっているということが起こります。もちろんこの土壌になった時の石灰質と粘土質の比率はその風化の度合いによってさまざまに変化しうるわけです。

こんなふうに粘土質と石灰質が基礎素材になっている土のことを粘土石灰質土壌とか、フランス語ではsol argilo-calcaireソル・アルジロ=キャルケールと呼びます。アルジロ=キャルケールって、ワインの資料を読んでいると頻繁に目にすると思います。とにかく粘土質と石灰質の土壌だよという意味の言葉で、どっちがどれだけの比率で含まれているかには言及していないざっくりとした言葉ですね。乱用するのはいいけど、地質学の言葉じゃないから注意してねって先生がよく言ってました。なので土壌の中での粘土質と石灰質の比率については次回見ていきたいと思います。

オストレアアキュミナタを含むマルヌ

地質学の分類にもう一回立ち戻って考えてみると、粘土岩は堆積岩の中でも砕屑岩に分類されると前々回見てきました。そして前回見た通り化学反応と沈澱でできた石灰岩は堆積岩の中でも化学岩に分類されましたよね。ということは、その粘土質と石灰質が一緒に堆積した岩であるマルヌは、砕屑岩と化学岩の間の子ってことですよね。

コート・ド・ニュイのグラン・クリュの母岩の1つにマルヌがあるんですが、それはオストレア・アキュミナタというもう絶滅してしまった牡蠣の化石を大量に含んでいるマルヌです。ということは、砕屑岩と化学岩の間の子であるマルヌに、生物岩でもある化石がたっぷり入ってるってことですよ。

地球の一部分としてその岩をみるとわーカオスって感じですけど、学問としては名前をつけて分類しているからこそ、その複数の要素が混ざってるグラデーションの一番複雑な部分を垣間見ることができる、しかもグラン・クリュの母岩の1つになってみんなに味わわれている。すごく魅力的な岩です。

次回はぶどう樹にとって石灰質はどんな存在なのか、敵か味方か・・・!というところを見ていきましょう。

こちらが音声版『宇宙ワイン』です。