ワイン産地の母岩を、地質学的な分類にあてはめよう

今回から数回にわたって、ぶどう畑の母岩とその土壌を1つずつ見ていくんですけど、こんな細かいことってソムリエに必要なのかなってほんの一瞬疑問が湧くかもかもしれません。でも、ワインの資料によく出てくる〇〇土壌というものがワインの質やぶどう樹にとってどんな存在なのかを根本的に理解して面白いな!と思うには、ちょっと細かいこの辺りから話していきたいなと思います。

今回はまず、地質学的な分類にワイン産地の母岩をあてはめていきましょう。この分類はそれぞれの岩がどうやってできたのか、何でできているかを基準にしたものです。
そして次回からは、それぞれの岩の特徴と、その岩が風化してできる土壌を見ていきます。

重要なのは、土壌の性質に影響するのは、その母岩の特徴と、その母岩がどれだけ風化しているかです。ここでいう風化というのは、粒子の質的な変化のことです。なので数万年とかっていう物凄く長い単位の時間がかかる風化です。もちろん現在も毎日その風化は進んでいるんですけど、本当にわずかずつなので、人間は体感しない程度です。

例えばブルゴーニュのワインの歴史はだいたい二千数十年くらいなんですけれども、その間にこの石灰質土壌がすっかり粘土質土壌に変質するようなことは起こらないってことですね。なのでワインの資料に書かれてる地質も書き換わることはないと言えそうです。

ワイン産地の母岩を、地質学的な分類にあてはめよう

地質学では、岩がどのようにできたかによって3つに分類していますよね。1つ目がマグマが固まってできた火成岩。2つ目は積もったものが固まってできた堆積岩。3つ目が火成岩や堆積岩に熱や圧力がかかってできた変成岩です。

火成岩 マグマが固まってできた岩

ソアーヴェ、トカイ、ウィラメットに見つかる玄武岩
ボジョレー、ミュスカデ、ローヌ北部に見つかる花崗岩

注意したいのは、これらの産地の全域がこの母岩という意味ではなくて、大部分とか一部にこの岩を母岩にしたぶどう畑があるよという意味です。なので、一つの産地に複数の母岩が見つかる場合が多いです。続けて見ていきます。

堆積岩 積もったものが固まってできた岩

ブルゴーニュ、ジュラ、ボルドー、コニャック、ピエモンテ、リオハに見つかる石灰岩
シャンパーニュに見つかるチョーク(チョークも石灰岩の一種です。このことも追々見ていきます)
プイィ・フュメに見つかるシレックス(火打石)
サンタ・クルーズ、フィンガーレイクスに見つかる頁岩(けつがん)
ヘレス、サンタ・リタ・ヒルズに見つかる珪藻岩(けいそうがん)
トカイに見つかる凝灰岩(凝灰岩は火山の噴出物が堆積してできた岩なので、専門家によっては火成岩に分類する場合もあります)

変成岩 火成岩や堆積岩に強い熱や圧力がかかってできた岩

アンジュー、モーゼルに見つかる粘板岩(ねんばんがん)
アンジュー、ミュスカデ、ルーション、ラングドック、モーゼルに見つかる片岩(へんがん)
ミュスカデに見つかる片麻岩(へんまがん)
ミュスカデに見つかる角閃岩(かくせんがん)

これらの岩を、地球上にあるさまざまな岩の分類と一緒に並べて見てみましょう。

地球の外に目を向けてみると・・、

アポロ11号がもって帰ってきた月の石は火成岩の1つ、玄武岩に分類されます。
一方、火星の地表は主に火成岩の玄武岩と安山岩でできているということが元々知られていたんですけど、火星探査機のキュリオシティは堆積岩である礫岩も見つけています。

いろんな星の岩も、こうやって地球の岩と並べて分類できると知らされると、地質学って地球のことだけを考えてるわけじゃないのがかっこいいですし、他の天体が身近な感じがします。

どんな星の岩でも、風化したその粒子を基礎材料に土ができたら、ピノ・ノワールを植えて冬に剪定すればときっとその土地のことがよくわかるんだろうなとか妄想しかけるんですけど、他の星には生き物も有機物も水も空気もこんなにたくさん揃ってないから土にならないんですよね。地球は本当にめずらしい星だなと思います。

 

こちらが音声版『宇宙ワイン』です。