対策をなにもしないでおけば、ぶどうの収穫を完全に奪いうるmildiouミルデュー(ベト病)。
つまり収入ゼロ(収穫・醸造・熟成・瓶詰めできれば最短の出荷で再来年の収入)。出費は・・・・あっ。とんでもない赤字でやんす。しかも来年ももし悪天候がつづいてまたミルデューが大流行して収穫がなかったら、・・・・ドメーヌつぶれちゃうわ。
そ、そんな恐い病害なんだったらもう、ぶどうの生長期は朝から晩までもうずーーーっと農薬散布しっぱなしにしようっ・・。は~あんしん・・。
もちろんそういうわけにはいかないわけで、そもそも農薬には使用限度の量や回数が定められているし、農薬の費用に、人件費もかかる。
だからtraitementトレットモン(農薬散布)は、いかに必要な時に必要な量に限っておこなえるかが鍵となる。
では、いつ農薬散布をおこなえば最大限にミルデュー(ベト病)の蔓延を防ぐことができるのか。キーワードは予測だ。
ミルデュー(ベト病)の性質とplasmopara viticolaプラスモパラ・ヴィティコラの1年間のサイクル
mildiouミルデュー(ベト病)の原因のカビplasmopara viticolaプラスモパラ・ヴィティコラの生き物としての1年間のサイクルをみてみよう。
第1次感染
ぶどう樹がこの年はじめてのmildiouミルデュー(ベト病)に感染するための3つの条件
・越冬したミルデュー(ベト病)の原因カビ、プラスモパラ・ヴィティコラが地表にあること
・ぶどう樹は、芽が開き1枚目の葉が広がっていること
・気温が11度以上あり、じゅうぶんな雨が降ること
地表に存在するプラスモパラ・ヴィティコラが、雨のはねかえりでぶどうの若葉に付着する。そしてぶどうの葉の裏側にある気孔から侵入する。
潜伏期
まだ肉眼では確認できないけれど、カビはぶどう樹からの栄養で生長と増殖をつづける。潜伏期間はおもに気温の高さによって変化し、ブルゴーニュでは5~25日間とされている。
ぶどう樹の生長速度もまた気温の高さによって変化するけれど、ふつう25日もあればぶどう樹の芽は茎になり、広がった葉をなん枚ももつようになる。
斑点の出現
カビは数が増えつづけることで葉の裏に白い斑点としてあらわれ、肉眼で確認できるようになる。ぶどうの花の房に感染していれば、蕾や花が褐色に変色して白い菌糸が覆う。そしてそのまま増えつづければ、その器官全体に菌糸がひろがる。
胞子の形成
胞子が形成される条件は
・湿度80%以上
・気温13度以上
雨が降って止んだら、すかさず日光が濡れた土を照らして、ぶどう畑の湿度と温度をいっきに上げる。それだけならただの雨降りだけれど、ふたたび雨が降り止んで、日光が土を・・そしてみたび雨が・・と、こんな天気の繰り返しが1日のうちに何度もおこれば、胞子が形成される条件をずっと満たしつづけてしまう。
こんな日が、数日や数週間にわたって点在する年もある。そうかと思えば、カラリとした晴天がずーっとずーっとつづく年もある。ブルゴーニュは大陸性気候の範囲に入っているけれども、じつは地中海の気候と北の海の気候の影響を強くうけているからだ。
だからこそ、毎年ことなった天候条件のもとで生長したぶどう樹は、作柄のちがうぶどう房をめぐみ、おなじclimatクリマ(区画)のワインでも年毎にさまざまな表情をみせるわけだけど、
それはmildiouミルデュー(ベト病)のリスクの高さも年毎にさまざまだということでもある。
第2次感染と第2次潜伏期
できあがった胞子が、雨や風でぶどう樹のほかの葉やぶどうの花の房など若い器官に飛びちり、感染する。感染後はそのあたらしい場所で生長、増殖をはじめる。
サイクルができあがる
湿度と気温におうじて、いくつもの生長、増殖、斑点の出現、胞子の形成、感染がいたるところで繰り返しおこる。
葉がモザイクのようになる
夏の終わり、mildiouミルデュー(ベト病)に感染した葉はモザイクのようになる。
oosporeオースポル(卵胞子)の形成
mildiouミルデュー(ベト病)に感染した葉は、健康な葉とおなじように秋に地面へ落ちる。そして冬前にはその葉のなかで、寒さに強いoosporeオースポル(卵胞子)となる。
冬季の休眠
mildiouミルデュー(ベト病)の原因カビのプラスモパラ・ヴィティコラは寒さに強いオースポル(卵胞子)のかたちで冬を越す。また、畑がbuttageビュタージュ(土寄せ)された場合は、土壌の中で越冬する。
春が来て雨が降れば第1感染へ・・
ミルデュー(ベト病)についての3つの予測
・mildiouミルデュー(ベト病)の原因カビplasmopara viticolaプラスモパラ・ヴィティコラが好む気温と湿度がつづくと予報される年は、蔓延するリスクが高い年と考えられる。
つまり、プラスモパラ・ヴィティコラの生長、増殖、斑点の出現、胞子の形成や第2次感染の頻度が高いということも、あらかじめ気象予報を利用して予測することができるのだ。
・第1次感染に雨が必要ということは、『雨=感染』というふうに考えられる。雨が降ることは気象予報で知ることができるから、気象予報がミルデュー(ベト病)の感染予報になるということだ。
もともとぶどう樹が発芽するには、気温11度よりもっと暖かい日がすでに続いていたということだから、このタイミングでは実質、じゅうぶんな雨が降るかが注目される。
・感染日(雨)から斑点が出る日まで期間は5~25日間。おもに気温の高さによって変化する。過去の気温と湿度と斑点出現までの日数の膨大なデータと比べることによって、今年は感染から何日目に斑点が出るか予測される。
そのためにコート・ド・ニュイの村ごとに気象予報が発表されている。
ジュヴレ村で雷つきのどしゃ降りだったというのに、ヴォーヌ村やシャンボール村ではなんにもなかった、(もちろんその逆も)ということはよくあることだから、気象予報は村ごとにされている。気象予報はmicroclimatミクロクリマに対応しているというわけ。
そしておなじ村の中でも、区画ごとの地勢や方角のちがいによってリスクの高低がある。たとえば畑の傾斜角度や、土壌の下の層の質によって水捌けのよさがかわる。谷との位置関係によって風の量も変わる。気温や湿度のちがいがうまれる要素はたくさんあるのだ。
だから長い歴史の中で知られるようになったその村の畑でいちばん病害に悩まされやすい区画を指標にして斑点の出現を観察する。
では、これら3つの予測をどのようにしてtraitementトレットモン(農薬散布)にいかすことができるか。それでは、農薬の特性をみてみよう。