61. vieille vigneヴィエイユ・ヴィーニュ(ぶどうの古木)の魅力(完結編 前編)

ヴィエイユ・ヴィーニュの魅力

vieille vigneヴィエイユ・ヴィーニュってなんだっけのページで、「ヴィエイユ・ヴィーニュの魅力は、エキス分の多い果汁を恵んでくれることだ。でも、それだけじゃない」と書いていた。

もうひとつのヴィエイユ・ヴィーニュ(ぶどうの古木)の魅力は、その区画の独自性を、ぶどう房として抽出してくれることだ。だから、その房や果粒を醸造すると、その区画の独自性を表現したワインになる。

そもそも、ワインが区画の独自性を表現しているかどうかは、ブルゴーニュのワインにとって最も重要で、根源的な価値基準だ

植えられたぶどうの苗木がしっかり年をとるまではその区画のクリマ名を名乗らず、本来の格付けより格下のワインとして販売されることがあるけれど、それは、そのぶどう樹が区画の独自性をぶどう房として抽出してくれるようになるまで待っているわけだ。

このようにヴィエイユ・ヴィーニュはブルゴーニュのワインに欠かすことのできない要素だとみなされている。

ぶどう樹もその場所の生態系の要素の1つになって100年生きる

ぶどう樹は苗が植えられた日から、一生を終える日まで数十年、百年をこえる年月を同じ場所で生きる。動物とちがって移動することないから、たった1つの場所の刻々とうつりかわる光と影のなかにいる。

そしてぶどう樹は生長しながら、天候の変化、土壌や地勢、生物との相互関係など、その場所の環境すべてと関係を築く。ぶどう樹もその場所の生態系の要素の1つになる。

1本のぶどう樹の1年を写真に撮って、インスタクラムにポストしていたものをまとめてみた。

だから、ぶどう樹が恵むぶどう房は、その環境の結果ともいえる存在だ。ヴィエイユ・ヴィーニュ(ぶどうの古木)は、長いあいだ同じ場所に生きているから、その場所の特徴をそなえたぶどう房が実り、醸造・熟成を経てterroirテロワールを表現するワインになる

でも、単にぶどう樹を植えただけでは、そのぶどう樹はヴィエイユ・ヴィーニュにはなれない

ここまで読んでくださった皆様にはよくご理解いただけていると思います。
ぶどう畑にヴィエイユ・ヴィーニュが生きているということは、ぶどう樹の生命力と、ぶどう樹とぶどう畑への仕事の両方があったということだ。

一方で、ぶどう樹やぶどう畑に対する仕事で、多くのことがコントロールできているようでも視点を変えると、全く知らないことだらけになってしまうぶどう樹を前にそこで働く人々はどんな想像力を持っているのか。

それを聞き出すためにも、それぞれの仕事の基本的な概念をおさえておきたかった。だから、この『Vieille Vigneヴィエイユ・ヴィーニュの仕立て方』を書きはじめんだった。

第1回を更新したのが7年以上前・・・?あれ。時間が経つの速すぎませんか。確かめてみたけれど本当に7年経っている汗。時間というのはどういう仕組みで過ぎてゆくのか。

話が脱線した。

ぶどう樹の天然のままの生命力だけでは成立しない、多くの人の知恵と混ざり合うことで、ヴィエイユ・ヴィーニュはぶどう畑で生きる

個人的にヴィエイユ・ヴィーニュが魅力的に見えるのは、その混ざり合っている部分にぶどう畑で働く者の想像力が感じられるからだ。

ぶどう畑で働く者の想像力

ぶどう樹も畑も言葉を話さないから、畑で仕事をしているとぐーっと想像が深まっていくし、年を重ねることでそれが広がっていく。だから、そこで働く人は、自覚無自覚に関わらず1人ひとり独自のイマジネーションを持つことになる。

また、そのイマジネーションは、誰かと共有したり統一する必要がないため、自由な精神がそこにはあり、個人個人の中で非常に個性的なイマジネーションになっている。

もちろん今までのページで見てきたような基礎的なことは学校や就業中に共有されるけれど、それはわずかなベース部分。

誰でも、また、どんな職業でもそうかもしれないが、そういったイマジネーションは、個人の人間性と強く結びついているのではないだろうか。そして、彼らはぶどう畑で観察したことを、そのイマジネーションの中で分析してぶどう畑の仕事につなげている。

画一的に見えるぶどう畑でも、実は多様なイマジネーションによって支えられているのだ

だれがぶどう畑で働いているのか

ぶどう畑で働くのは、主力は従業員である職人たちや彼らをまとめる畑部門の部長、ぶどう畑への興味やぶどう畑での仕事に熱いタイプのドメーヌの当主だ。

ドメーヌの名前は当主の名前や家の名前だけれども、実際に畑で働く従業員は、決して世に名前がでることのない農民だ。

大きな決断はドメーヌの当主や畑部門の部長が下すにしても、実際に1本1本のぶどう樹に直接触れているのは職人たちとなる。彼らの中に蓄積された経験や知識、想像力、また日々新たにとりいれる情報が合わさって、ぶどう畑で仕事を施す。

これまでのページで見てきたようにぶどう畑での仕事は何をどうすることなのか、目的やタイミングなどの基礎知識をおさえておけば、彼らがどんなイマジネーションを持って観察・分析し、仕事を選択しているのかを、理解することができる

どんなイマジネーションのおかげでヴィエイユ・ヴィーニュ(ぶどうの古木)はその区画の独自性をぶどうの房としてめぐみながら健康に歳を重ねているのかを、知ることができるのだ。