nouaisonヌエゾン(結実)
受粉・受精後すぐに、子房はとても速いスピードで大きくなりはじめる、果粒の生長の最初のこの段階を、nouaisonヌエゾン(結実)と呼ぶ。
nouerヌエと綴ると一般的には”結ぶ”という動詞で、農業や植物学の分野では”結実する”という意味でつかわれる。
nouaisonヌエゾン(結実)の段階のピノ・ノワールのぶどう房。つい数日前まで花があったところに、この果粒が生長している。その姿はとても幼く、直径は数mmだ。
花から数mmの果粒になるというこのプロセスは、1つの房の中であっても均一には起こらない。それには2つの理由がある。
・すべての花が結実に至るわけではないため
ヴィティス・ヴィニフェラのなかでも花流れしにくい品種が、受粉や受精にとって好ましい気候条件下で開花したとしても、結実する花は平均で50%しかないと言われている。
このことは、おいしく熟したぶどうを食べながら、果梗を観察することでみえてくる。詳しくはrafleラーフル(果梗・花梗・花柄)のページで見ていこう。
・すべての花が同時には開花しないため
また、開花が同時だった花でも、同時に受粉するとは限らないため
開花や受粉のタイミングよって、この段階では、果粒の大きさに数倍の差がある。
croissance herbacéeクロワッサンス・エルバセ
nouaisonヌエゾン(結実)の次の段階は、croissance herbacéeクロワッサンス・エルバセ(ぶどう果粒が緑色を留めたまま大きくなる生長)だ。この時期は、果粒の大きさによって2つの段階にわけられる。
・petit poisプティ・ポワ(えんどう豆)と呼ばれる段階は、果粒がえんどう豆ほどの大きさに達した段階。
・fermeture de la grappeフェルムチュール・ド・ラ・グラップ(果粒同士がお互いにくっつく段階)一般的なピノ・ノワールのぶどう房は、果粒が最終段階まで生長したとき、果粒がお互いのあいだに隙間なくくっつく品種だ。
逆に果粒が散在するタイプの品種のばあいは、ぶどう果粒が成熟しても、果粒同士は間隔を置いているから、フェルムチュールは不完全だ。
だからfermeture de la grappeフェルムチュール・ド・ラ・グラップは、果粒の大きさが最終的な果粒の大きさの約70%のに達した段階とされる。
ピノ・ノワールのfermeture de la grappeフェルムチュール・ド・ラ・グラップ(果粒同士がお互いにくっつく段階)。左の写真は初期で、まだ果粒のサイズに大きな違いがある。果粒同士が完全に触れ合っているもの、触れるか触れないがきりぎりのもの、さまざまだ。一方、右の写真では、すべての果粒が互いにくっついている。
véraisonヴェレゾン(色づき期)
croissance herbacéeクロワッサンス・エルバセの次の段階は、véraisonヴェレゾン(色づき期)だ。
véraisonヴェレゾン(色づき期)は、果粒が葉緑素の緑色をうしない、その品種特有の色合いになっていく段階。
そして、色が変化する直前に果粒が柔らかくなるという重要な変化も、véraisonヴェレゾン(色づき期)に含まれる。
白ぶどうに比べ、黒ぶどうはこの時期の色の変化が目覚ましい。とくにpinot noirピノ・ノワールはその名前の通り、黒みがかるまで色を深めていくから、さまざまなニュアンスの違いを見せてくれる。
あかるい緑色からはじまって、灰色がかったピンク、ピンクがかった薄紫、濃い紫、紫がかった深い青、濃い青や灰色がかった青、青みがかった黒、紫がかった黒、濃い黒まで色々だ。
まわりに反対色の緑色があるから、ピンクや紫の赤みがとてもとても美しく映える。繊細なグラデーションが、葉の緑にもぶどうの色にもあり、風にゆれる葉のあいだから光が届くと、さまざまな色合いがあらわれる。
ただ、強すぎる光は果粒の健やかな生長をさまたげてしまう。このぶどう房の中央右側にある光沢のある果粒は、強烈な日光に果皮が焼けてしまい、ほかの果粒と異なった色をしている。
maturationマチュラスィオン(成熟期)
véraisonヴェレゾン(色づき期)の次の段階は、maturationマチュラスィオン(成熟期)だ。
果粒の色はその品種ならではの色になり、色づき期に一休みしていた果粒の大きさの生長が再開する。maturationマチュラスィオン(成熟期)は、果粒の生長の最後の段階となる。
maturitéマチュリテ(成熟)
maturationマチュラスィオン(成熟期)の終わりに、ぶどう果粒はmaturitéマチュリテ(成熟)に至る。
maturitéマチュリテ(成熟)には、複数の種類がある。
・果粒の大きさの生長が止まる時点
・果皮がその品種特有の色になる時点
・果粒の糖度がもっとも高まる時点
・種子が木化する時点
など、1粒の果粒のmaturationマチュラスィオン(成熟期)のなかで、これらの瞬間は同時にはおとずれない。
こうして生化学、形態学、生理学などの観点から判断されるから、たった1つの時点をもって「今がこの果粒がmaturitéマチュリテ(成熟)に至った瞬間です!」とはなかなか言えないというわけだ。
ぶどう1房の中の成熟度の多様性
1つのぶどう房の中でも、開花・受粉・受精・結実が同時に起こるわけではないことが分かった。だから、果粒の大きさの生長にも、色づきにも、成熟にも進度の差がうまれる。
収穫日を決定するため、区画ごとにぶどう果粒の成熟度を調べる仕事を何度もくりかえすから、平均的にはしっかり成熟したぶどうが醸造される。けれど実際には、わずかに熟度の差があるぶどう果粒が醸造槽にはいっているわけだ。ワインになった時、そのわずかな差が、いくつもの果物の香りが重なった複雑さとなる。