37. ébourgeonnageエブルジョナージュ(摘芽)で苗木からguyot poussardギュイヨ・プーサールの樹形の基礎をつくる

ぶどう樹の苗を畑に植えた年から3~5年間は、樹形の基礎をつくる大切な期間だ。

あらかじめ決めた剪定方法と、そのぶどう樹を将来どのような姿にするかの方針にあわせて剪定と摘芽をすることで樹形を整える。

それはつまり、guyot poussardギュイヨ・プーサールのtailleタイユ(冬の本剪定)のページで見てきたぶどう樹のなかの2本の管もこの期間につくるということでもある。

このはじめの数年間の剪定でぶどう樹につくられる切り口は、そのぶどう樹の一生に大きな影響をおよぼすことになる。1度つくった切り口は取り消すことができないからだ。

ぶどう樹の樹液の流れを考慮しないなど、若木にたいする無知による悪い剪定やミスが原因で、毎年おおくのぶどう樹がその生長を終えると考えられている。だからぶどう樹を知り、慎重に剪定をおこなう必要がある。

ébourgeonnageエブルジョナージュ(摘芽)で樹形をつくる

そこで、その大切な数年間で、従来のようにtailleタイユ(冬の本剪定)で必要のない枝を切り落とすことで樹形をつくるのではなく、春のébourgeonnageエブルジョナージュ(摘芽)で必要な枝になる芽だけをのこすことで、めざす樹形をつくっていくという、あたらしい仕事の仕方を見ていこう。

この方法であれば、ぶどう樹に剪定で切り口をつくらずにすむから、リスクを抑えることができるのだ。

1年目(苗木を植えた年)

pépinièreペピニエール(苗木屋)の仕事のページで見たとおり、春のはじめに苗木を植えた。
気温が上がり、その苗木が発芽したところ。

赤いパラフィンのなかで守られていたcrochetクロッシェの2芽が、両方とも発芽している。

このぶどう樹を、guyot poussardギュイヨ・プーサールに仕立てるという方針でébourgeonnageエブルジョナージュ(摘芽)しよう。だいたいこんなかんじを想像。

attachageアタシャージュ(baguetteバゲットの固定)する針金の高さは、地表から40cmだ。

2芽しかないのに1芽摘んでしまうのは、かなり勇気のいる摘芽だ。けれど、1芽しかのこさなければ剪定の時に、将来の幹になる部分に1つも切り口をつけずにすむのだ。

ギュイヨ・プーサールに仕立てるという方針のばあい、上の図の摘みたい芽は、いわば保険の芽だ。のこしたい芽がなんらかの理由でうまく枝になれなかった時、摘みたい芽が枝になっていれば、来年のcrochetクロッシェに選ばれる。

でも理想どおりのこしたい芽が枝になっていれば、保険だった摘みたい芽が生長した枝は切り落とされることになる。その時につく切り口を避けるために、春の段階で、まだ芽のうちに摘んでしまおうというのがこの仕事の考え方だ。

芽が枝になるということは、葉を何枚も茂らせて、光合成をおこなうということ。つまり春夏の間におおくの樹液が流れる。そして、その樹液をとおす管が太るということでもある。

それはギュイヨ・プーサールにのっとって仕事をするときに欠かせない、ぶどう樹のなかにイメージする管だ。1年の生長期をすごして太った管を剪定で切り落とすのと、爆発的な生長がはじまる前に芽の段階で摘んでしまう違いが、切り口の有無になるのだ。

ébourgeonnageエブルジョナージュ(摘芽)は、期間をあけて2回以上
ébourgeonnageエブルジョナージュ(摘芽)による管へのリスクはまったくない。けれど、完璧にébourgeonnageエブルジョナージュ(摘芽)を行わなければ、摘みそこねた芽が枝になるから、結局剪定のときに切り口をつけなくてはならなくなる。

それでは意味がないので、ébourgeonnageエブルジョナージュ(摘芽)は期間をあけて2回以上おこなう。そうすれば摘みのこしを避け、時間差で発芽してくる後発の芽もしっかりと摘むことができる。
1度目は、早めに、芽が5~8cmに伸びてきた頃。
2度目は、その約3週間後か、もしくは1度目でのこした芽が生長し支柱や針金にくくりつけられた頃だ。

ébourgeonnageエブルジョナージュ(摘芽)後、のこされた1芽が生長、夏には木化し、収穫期の後に落葉した。

このsarmentサルモン(新梢)に2芽のこして剪定。新しいcrochetクロッシェをつくる。

もともと樹勢が強くないピノ・ノワールのような品種のばあい、植えられて間もない区画では、ぶどう樹は毎年前年の3倍の枝を生長させることができるとされている。

例えばこのぶどう樹はこの年sarmentサルモン(新梢)が1本だったので、翌年は3本のsarmentサルモン(新梢)が丈夫に生長できるという予測が立てられる。

一方で密植した区画では、ぶどう樹は最大でも前年の2倍の枝しか生長させることができない。コート・ド・ニュイのぶどう畑のように最大限に密植している区画のこのぶどう樹のばあい、この年sarmentサルモン(新梢)が1本だったので、翌年は2本のsarmentサルモン(新梢)が丈夫に生長できるという見通しで剪定をおこなう。つまり、のこすのは2芽だ。

2年目

前回の剪定でのこした2芽が丈夫に生長し、2本の木化したsarmentサルモン(新梢)になった。落葉後だ。

これら2本の枝が直径7~8mmを上回っているから、将来の幹になることができる。より下から発芽した左のsarmentサルモン(新梢)を、このぶどう樹の将来のtroncトロン(幹)にすることに決めた。

右のsarmentサルモン(新梢)を切り落とすとき、芽がのこっていてもよいので枝の直径分ほど幹から離れたところで切る。こうすることで、ぶどう樹の基礎部分に切り口をつけるのを避けることができる。

そのかわり、春にこの部分から発芽してくる芽を完全にébourgeonnageエブルジョナージュ(摘芽)する必要がある。剪定の時にのこすと決めた芽以外を取り除くということだ。

必要ない枝=必要ない管 を閉めたいときは、剪定で切り落とすことによって管を閉めるのではなく、春に発芽してきたところをébourgeonnageエブルジョナージュ(摘芽)することによって管を閉めるという考え方だ。

そうすれば、閉めた管の乾燥が、この樹にとって重要な管まで乾燥させてしまうことを防げる。

本来のbaguetteバゲットの役割は、複数のsarmentサルモン(新梢)を発芽させ、その分だけぶどう房の収穫量を確保することだけれど、この若木にとってのこのバゲットは樹形をつくるためのバゲットだ。

その特徴は、次の図のように摘芽して、必要な位置に必要なだけサルモンを発芽させること。

このバゲットをfil de tailleフィル・ド・タイユ(地表から40cmの高さに張った針金)にまきつける時、バゲットをねじるように回転させることで、のこしたい芽の角度を微調節できる。

おかげでのこした芽が生長し枝になったとき、ぶどう樹の列からとび出さず、列の中心線に沿って左右に広がるように生長できる。

前年、2本サルモン(新梢)を生長させたこの樹は、この年4本の丈夫なサルモン(新梢)を恵んでくれると想定できる。

だから、ébourgeonnageエブルジョナージュ(摘芽)でのこすのは4芽だ。そして、のこす芽の位置は地表から20〜25cmに、1番下の芽を発芽させたい。

3年目

前回のébourgeonnageエブルジョナージュ(摘芽)でのこした4芽が丈夫に生長し、4本の木化したサルモン(新梢)になった。落葉後だ。

これら2本のサルモン(新梢)を、将来のbrasブラにすることに決めた。適切な高さのブラになるように、芽の位置を確認し、樹形をつくるための大きなcrochetクロッシェをつくる。

2つの大クロッシェをブラにするためのébourgeonnageエブルジョナージュ(摘芽)だ。このとき特に重要なのは、左右の両端にある外側の2芽。この2芽を丈夫な2本のサルモン(新梢)に生長させたい。

4年目

落葉後。
左右の両端にある外側の2本のサルモン(新梢)をそれぞれクロッシェにする。前年、4本サルモン(新梢)を生長させたこの樹は、この年最大で8本の丈夫なサルモン(新梢)を恵んでくれると想定できる。

つまり、理論上は今回の剪定からバゲットをつくることができるということだ。が、ここでは焦らず4芽の大クロッシェと2芽の通常クロッシェで、計6芽をのこすことにする。

5年目

地表から40cmの高さに張ったfil de tailleフィル・ド・タイユ(バゲットを固定する針金)の約15cm下から、brasブラが左右に理想的に広がっている。

左右に広がるbrasブラの意義

brasブラが左右にあるおかげで、crochet de rappelクロッシェ・ド・ラペルになるgourmandグルモン(徒長枝)が発芽するための理想的なスペースが生まれている。

これがguyot simpleギュイヨ・サンプルだと、なるべく垂直にまっすぐ仕立てることが要求されているから、グルモン(徒長枝)が幹の脇から発芽してくると、将来的に樹の形が傾いてしまう。

かといって、垂直方向に発芽するグルモン(徒長枝)をcrochet de rappelクロッシェ・ド・ラペルにするのでは、樹をそれほど低めることができないというジレンマがあった。

その点、ギュイヨ・プーサールの場合は、幹の脇から発芽してくればそれはすでに理想的な位置だ。しかもbois mortボワ・モー(枯れた部分)がないから、複数のグルモン(徒長枝)が発芽する可能性が高く、そのなかからクロッシェ・ド・ラペルに最適な高さの芽を選ぶことができるという利点もある。

ここまでが、ébourgeonnageエブルジョナージュ(摘芽)を主体とした、苗木からguyot poussardギュイヨ・プーサールの樹形の基礎をつくる流れだ。

必要のない枝を切り落とすのではなく、その枝が生長する前に芽を摘んでおくことで、ぶどう樹の基礎部分に剪定による切り口をつけないで樹形をつくることができた。

この樹をギュイヨ・プーサールにのっとって剪定するとこのようになる。それは、こちらのページで詳しくご覧ください。

剪定方法はぶどう樹と一体になる

guyot poussardギュイヨ・プーサールという剪定方法の考え方は、ぶどうの苗木が植えられ初めて発芽した芽をébourgeonnageエブルジョナージュ(摘芽)する時から、すでにそのぶどう樹の長いながい一生を見越していて、ひとつの命に寄り添いつづける覚悟のようなものがあるように感じられる。

どの剪定方法も、ぶどう樹の生長がむずかしい局面に接して、剪定方法が手詰まりになると、そのぶどう樹の命と剪定方法が同時に破綻することになる

ギュイヨ・プーサールのばあいは、生長を妨げる人的要因をはじめからふせぐこと、そしてgourmandグルモン(徒長枝)を理想的な位置に発芽させる仕組みをつくることで、ぶどう樹を長寿に導くことに成功している。

剪定方法に手詰まりにならない工夫が、苗を植えた年から始まっているのだ。

また、ギュイヨ・プーサールという剪定方法を身につけるには、まずぶどう樹の生理や解剖について理解することからはじまる。おかげで、ぶどう樹の生命力と、ワイン造りのためにぶどうに求められる質のバランスをたもつことができるし、無理解による悪剪定によって生長が妨げられることもない。

ギュイヨ・プーサールという考え方が、施すべき仕事をいつもわたしたちに提案してくるという印象だ。

寿命と仕事とvieille vigneヴィエイユ・ヴィーニュ(ぶどうの古木)

ぶどう樹の潜在的な寿命にくらべたら、わたしは途中で死んでしまうけど、guyot poussardギュイヨ・プーサールはずっとこのぶどう樹とともにあり、ぶどう樹の命と一体になり、ずっとぶどうの房を恵みながら生長することができる。それは、剪定方法という型とそこにとじ込めた考え方として、継承されていく仕事があればこそだ。

人が死に生まれ、働き手も時代もかわるけれど、受け継がれる剪定方法によってぶどう樹が生き続けることができる。vieille vigneヴィエイユ・ヴィーニュ(ぶどうの老樹)になることができるのだ。

そしてもちろん、この剪定方法にとってかわるあたらしい考え方や方法が採用されることもあるだろうし、より古い方法へ回帰されることもあるだろう。

剪定の方法だけではなく、人の考えやぶどう樹や畑に施されてきたそれぞれの仕事が、ぶどう樹や畑に蓄積され、環境と相互関係を作りながら、生態系というサイクルをなしている。

ぶどう樹はその畑で、何十年ものあいだ移動することなくずっとずっと生きている。そんなぶどう樹が恵むぶどうの房は、ワインになると毎年そのヴィンテージを記されるけれど、ぶどう樹をとおして繋がれてきた時は途方もなく長い。