土の中の水分量の変化とぶどう樹の根の吸引力

光合成で糖分が作られました。さあ、この糖分が新しい枝や葉の生長に使われるのか、それともぶどう房の果粒(果実)に送られていくのか、それを決めるのは、土からどれだけそのぶどう樹に水分が供給されているかです。ぶどう樹が自由に使える水分量はどのように決まるのか、土砂降りの雨が止んだところから見ていきましょう。

土の中の水分量の変化 土砂降りの雨が止んだところから

イメージしやすいので、植木鉢の土を想定してみます。植木鉢の土に土砂降りの雨が降っていて、表面に水溜りができています。雨が止みました。土が水を吸い込み、水溜まりもなくなっています。この時、植木鉢を持ち上げると、底の穴からじゃーっと水が出ています。そして時間が経つと、水が一滴も垂れなくなる瞬間がきます。この瞬間が、植木鉢に入っているこの土が、最も水を多く保持している状態だと考えます

ぶどう畑は持ち上げることができないので、実際に土から水が垂れなくなる瞬間は目で見て観察できないですけども、土の中で、重力による水の移動が止まる時のことをイメージしてみてください。

土の中で水が留まる仕組みについては、ポッドキャスト23回目の土の水捌けのところで見てきましたよね。重力が下に引っぱるよりも、土の隙間が引きつけておく力の方が強いと、水は土に留まるんだという話でした。しかも、その土を構成している粒子のサイズによって、粒子同士が作り出す隙間の大きさに違いがある、そして、隙間の大きさが水の留まりやすさに影響しているんでしたよね。

だから土によって水捌けの良さに差があるんだけど、どの土であっても、重力による水の移動がなくなった時が、その土にとって最も多く水を含んでいる状態なんだということです。そして、この時がそこに生きているぶどう樹にとって、最もかんたんに水を吸い上げることができる瞬間です。具体的に言うと、その土によりますけども、ぶどう樹の根がだいたい-0.5〜-1bar(バール)の圧力で吸えば水が入ってくる状態です。

bar(バール)というのは、圧力の単位

-1barが直感的にどれくらいの力かというと、掃除機の吸い込み口を1c㎡にして、1kgの物を吸引力で持ち上げ上げられた時の圧力です。なので、お家の掃除機じゃ無理そうな吸引力ですね。土の中に潤沢に水分がある時は、この-1barくらいでぶどう樹の根は水分を吸い上げているということです。

土の中の水分がぶどう樹にとって多すぎる

でも、さっき土砂降りの最中もその直後も、水は土の中に大量にありましたよね。なんだけれども、その水は重力に引っぱられて土の中を速やかに降っていました。だから、その動いている水を根がぶどう樹の体の中に取り入れるのは難しかった、吸う力が非力すぎるわけです。巨大な滝の真ん中から、手で水を掬おうとする難しさですよね。

土の中の水分がぶどう樹にとってちょうどいい

その後、土の中を水が降っていく流れが止まれば、ぶどう樹は充分な水を吸い上げられます。なぜならこの時、根が競争してるのは土の隙間だからです。土の隙間が水を引きつけておく力ですね。根はこの競争だったら、かんたんに勝つことができます。

しばらくの間は、根はこの水の引っぱり合いの競争に勝ち続けて、土の隙間の中にある水分を吸い上げ続けます。これは、土の粒子の中でも大きな粒子が作る大きな隙間が、軽い力で引きつけている水分だから、ぶどう樹の吸引力が勝つわけです。

土の中の水分がぶどう樹にとって少なすぎる

ところが、もしこのまま雨が降らず、人間が水やりすることもなかったら、根が水を吸い上げられなくなる時がきます。大きな隙間の水も中位の隙間の水も吸い尽くしちゃったからですね。土の粒子の中でも小さな粒子が作る、極々小さな隙間に入っている水分は、ぶどう樹が最大の力で吸引しても出てきません

粘土は4μm(マイクロメートル)以下の粒子ですから、小さな粘土粒子が半径が0.01μmほどの隙間を作ってしまうと、ぶどう樹の根が-16barの圧力で吸っても中の水は出てきません。一般的にぶどう樹の根はこれ以上の力で吸うことができないので、この状況が続くとぶどう樹は枯れてしまいます。

「土の中の水分量」は、「雨の量」と「その土地全体の水捌け」の組み合わせ

ここまでをまとめると、土の中の水分量にはぶどう樹にとって多すぎる量、ぶどう樹が自由に使うことができるちょうどいい量、ぶどう樹が枯れてしまうほど少なすぎる量があるということですね。

そして、このポッドキャスト5回目・23回目と今回をわーっとまとめると、
土の基礎素材の粒子のサイズは大きな方から砂・シルト・粘土。また、これら3粒子が何割ずつ含まれているかでその土の土性が決まる。

その土を構成している粒子のサイズによって、粒子同士が作り出す隙間のサイズにも違いがあり、小さい粒子が作る小さい隙間は中に水を留めておく力が強い。だから粘土質土壌は砂質土壌に比べて保水性が高い土だって言われるんでした。具体的には、土性が違う2つの区画にもし同じ量の雨が降っても、それぞれの土の中の水分量には差が生まれるということです。

だから、土の中の水分量は、たんに雨の量や回数が決めているわけではなくて、その土の土性やその土地全体の水捌けの良さと雨の量や回数との組み合わせで決まっている。次回、土の中の水分量というものがぶどう樹にものすごく大きな影響を与えるという話になっていくんですが、この時、ぶどう樹にとって土地の要素と気候の要素って、土の中の水分量という一つの存在として関係しているということですよね。天と地ほど離れてるのに一つのものって変ですし、しかも、場所ごとにその一つひとつが特徴を持っていて、ワインを形作ってるって最高に面白なと思います。

こちらが音声版『宇宙ワイン』です。