火成岩はマグマが固まってできた岩です。マグマが地下深くで固まったものは深成岩と呼ばれ、マグマが浅いところで固まったものは火山岩と呼ばれます。これらの岩は無機物の結晶で成り立っていて、長い時間かけて風化されるといろいろな種類の粒子になります。そして、それぞれの粒子が土の基礎材料になれば、ぶどう畑の個性になります。詳しく見ていきましょう。
ゆっくり冷えてできた岩、深成岩
深成岩は、地下深くのマグマ溜まりが、長い時間をかけて冷やされることで形成されます。このゆっくりとした冷却によって、マグマの中の同じ成分が集まって結晶になるので、さまざまな種類の結晶が肉眼で見えるくらいの大粒の状態で、しかもだいたい同じようなサイズでひしめいています。このような組織を等粒状組織(とうりゅうじょうそしき)と呼びます。
ボジョレー、ミュスカデ、ローヌ北部に見つかる花崗岩は、この深成岩の一種ですね。
はやく冷えてできた岩、火山岩
火山岩は、マグマが地表や地表近くで速く冷やされることでできた岩です。この速い冷却では大きな結晶ができる暇がないので、細かい粒子が集まってできた石基(せっき)と呼ばれる部分に、やや大きめの結晶が散らばっています。このような組織を斑状組織(はんじょうそしき)と呼びますが、肉眼では結晶の粒を見分けることができないほど細かいのが特徴です。
ソアーヴェ、トカイ、ウィラメットに見つかる玄武岩は火山岩の一種です。
岩石を構成している鉱物、造岩鉱物
では、岩を構成している結晶の種類に注目していきたいと思います。地質学っぽくいうと、「岩石を構成している鉱物、”造岩鉱物“」ですね。地球で天然に存在する鉱物は約5千種類見つかっています。その中でも、岩石の大部分を占めるのが以下の7種類の鉱物です。
造岩鉱物の名前と一緒に化学式を載せたのは暗記したいからではなくて、ここで意識しておきたいことは、岩は造岩鉱物の集まりで、造岩鉱物は分子の集まりで、分子は原子の集まりだということです。
この後これらの造岩鉱物が風化して、分子がバラバラになっていくので、どんな原子が含まれてるのかチェックして見てください。
至る所に、Siケイ素、Alアルミニウム、O酸素がある・・!!
無色鉱物
石英 SiO₂
カリ長石 KAlSi₃O₈
斜長石 CaAl₂Si₂O₈ – NaAlSi₃O₈
有色鉱物
黒雲母 K(Fe, Mg)₃AlSi₃O₁₀(OH)₂
角閃石 Ca₂(Fe, Mg)₄Al(AlSi₇O₂₂)(OH)₂
輝石 (Ca, Mg, Fe, Al, Ti)₂(Si, Al)₂O₆
カンラン石 (Fe, Mg)₂SiO₄
火成岩の分類
この分類はそれぞれの岩がどうやってできるのか、何でできているかを基準にしたもので、それはつまり、火山岩か深成岩か?造岩鉱物の含有比率は?の組み合わせで火成岩が大別されているということです。
造岩鉱物は、無色鉱物と有色鉱物に分けることができます。花崗岩と流紋岩は主に無色鉱物で構成されているので全体的に白ぽっいですし、逆に、斑れい岩と玄武岩は有色鉱物が多く含まれるので黒っぽいのが特徴です。
また、花崗岩と流紋岩は二酸化ケイ素SiO₂の含有量が多いので酸性岩、逆に斑れい岩と玄武岩は二酸化ケイ素の含有量が少ないので塩基性岩に分類されます。花崗岩を母岩に持つボジョレーの土壌が酸性なのはここから来ています。
完成した花崗岩が風化していく過程を妄想
地下深くで固まった花崗岩。地殻変動が起こって隆起して地表に出てきました。15回目の投稿で見たように、物理的、化学的、生物学的作用を受けて、長い時間をかけてこの花崗岩が風化していきます。
数m単位の大きさの塊、数十cm、数cmほどのサイズに崩れ、さらに2mm以下になると、鉱物は砂と呼ばれます。この砂を顕微鏡で観察してみると、花崗岩の造岩鉱物である石英、カリ長石、斜長石、黒雲母・・それぞれが砂の一粒一粒となっているのがわかります。造岩鉱物には色や割れ方に特徴があるので見分けることができるんですね。
さらに時間が経って風化が進むと、粒子がもっと細かく62.5μ以下になるとシルトと呼ばれ、4μ以下になると粘土と呼ばれます。でも、造岩鉱物の中でも石英は硬く水にも溶けづらいため風化されにくいので、石英は砂の粒が残りやすい特徴があります。逆に黒雲母はもろいので真っ先に風化され、それに長石類が続きます。
これらの造岩鉱物が水に溶けだしイオン化するわけです。そして分子の構成メンバーだったアルミニウムやケイ素がバラバラになった後、今度は粘土鉱物に組み上がっていきます。粘土鉱物がぶどう畑にとってどれだけ重要かは6回以降の投稿でお話ししてきた通りです。
造岩鉱物ごとに構成元素が異なるし、環境ごとに溶け方が異なるため、できあがる粘土鉱物の種類もさまざまです。
ワインの資料にでてくる「花崗岩質土壌」
こうして花崗岩が風化しでできた砂・シルト・粘土と、土の4要素(生き物・有機物・水・空気)が組み合わさった土壌を「花崗岩を母岩に持つ土壌」「花崗岩質土壌」と言います。
そしてワインの資料の中でより詳しく、「花崗岩を由来とする砂質土壌」「花崗岩を母岩に持つ粘土質が多めの土壌」というふうに、花崗岩がどれだけ風化されているのか、つまり土性についても説明されている場合があります。
あとは、「花崗岩を由来とする古い土壌」という表現も目にすることがありますが、もうピンとくるかと思います。それは風化が進んで粘土質が多めというニュアンスですよね。
多様な花崗岩が、しかも風化のグラデーションも様々に土壌になっている
なので、花崗岩質土壌と一言で言っても、どれだけ風化されているかによって土性に大きな違いが出る、つまり土壌の性質に大きな差が出るということです。
しかも、地質学的に大掴みで分類すると花崗岩と呼ばれるんだけど、一つ一つの岩は固有であるとも言えます。なぜなら、大部分を占める主な造岩鉱物以外に、固有の”その他の造岩鉱物“をわずかに含んでいるからです。アルザスの花崗岩とボジョレーの花崗岩はそれぞれが別々に出来上がった唯一の存在です。それらの一部が、風化されて土壌になっているので、その場所特有の、しかも長期的な目線で見れば今しかない土壌を形成しているんです。
こちらが音声版『宇宙ワイン』です。