植物の必須元素17個とワインの関係 〜14元素編〜

植物の必須元素は大量に必要な多量元素と、わずかだけど必要不可欠な微量元素に分かれます。それぞれの元素がどのような働きをしているのか、引き続き14元素を見ていきましょう。

前回に続いて、次に大量に必要な元素は、窒素・リン・カリウム

窒素(N)はDNAや葉緑素の材料の1つなので、窒素が足りないとぶどう樹は生長することができません。そして窒素はアミノ酸の材料でもあり、それが集まってタンパク質になると、ぶどう樹の体中で、1つひとつの細胞の中で酵素としても働きます。これはもうぶどう樹に限らず動植物にとって必要ということですね。

アミノ酸とタンパク質の構造式に窒素(N)を見つける

また、アルコール醗酵にも必要です。糖を食べてアルコールを出す酵母も、体を作るのにタンパク質がたくさん必要です。酵母の体の重さの3分の1はタンパク質なので、ぶどうが充分な量の窒素を含んでいないと、醗酵槽の中で酵母が増えないんですよね。

醸造は、ぶどうの果皮の表面にくっついてる酵母や、醸造家が買ってきた酵母を添加してもどちらでも可能ですが、醗酵槽に入った時の酵母の数では醸造が完結しません。糖を食べてアルコールを出すその酵母の数、つまり酵母がちゃんと分裂してくれることが重要なわけです。

酵母は大体20回ほど分裂することができるので、1つが2つになり、2つが4つになり・・とどんどん増えるわけですが、そこに窒素がないと体が作られないので、分裂できない。なので足りない場合は、窒素を醸造中に添加することもAOCの法律上は可能です。ですから、窒素はぶどう樹の生長にとっても、醸造にとっても重要な元素です。

 

リン(P)もDNAの材料の1つです。1本のぶどう樹が遺伝情報通りに生長できることもワイン作りに重要ですが、塩基配列のほんのわずかな違いのおかげで、様々なセパージュが存在していることを考えると、ぶどう樹のDNAが結構身近に感じられるのではないでしょうか。

DNA構成する3要素には、窒素(N)とリン(P)が必須です。

 

カリウム(K)はぶどう樹の細胞内の浸透圧の調節と、確実に糖を運ぶために、特に色づき期から成熟期にかけて大量に必要とされる元素です。ぶどうの果粒は結実後の緑色の時期は自分で葉緑素を持っていて糖を作っているんですが、色づき期初期に葉緑素が消失するんですね。なので、葉が作ってくれた糖を輸入するしかなくなるので、それを運ぶためにカリウムがたくさん必要になります。

 

そして次は、カルシウム・マグネシウム・硫黄も、大量に必要な元素

カルシウム(Ca)は細胞壁の材料になる元素です。なので、欠乏すると生長できませんし、細胞から栄養を吸い取るタイプの病気が蔓延しやすくなります。

マグネシウム(Mg)は、葉緑素の材料になる元素です。

葉緑素にはマグネシウム(Mg)が必要不可欠です。

硫黄(S)はビタミン類や、システインなどのアミノ酸の材料となる元素で、糖の合成を促進します。

 

最後に微量元素8種類

鉄(Fe)・マンガン(Mn)・銅(Cu)・ホウ素(B)・モリブデン(Mo)・亜鉛(Zn)・塩素(Cl)・ニッケル(Ni)は、植物の体そのものを形作るというよりは、酵素のように働くので、必要量は少なくても植物の生長に不可欠な元素です。

例えば、鉄・マンガン・銅・亜鉛は、葉緑素には含まれませんが、葉緑素を作るときに必要です。欠乏すると葉がクリーム色になってきて、糖を作れずだんだん発芽もできなくなり一本の樹が死んでしまいます。
他の元素も、デンプンを作るとき、植物ホルモンを作るとき、ビタミンを作るときなどなどに必要とされます。

 

腐植化・無機化・有機化のサイクル

今回見てきた14個の元素は、土の中で水に溶けてイオン化した状態で存在しているところを、根っこが吸い上げてぶどう樹の体の中に入り、ぶどう樹の体になります。それはつまり、土の中にある時は無機物だった元素が、ぶどう樹の中で炭素(C)を含む化合物、つまり有機物になったということです。これを、有機化と言います。

1回目の配信で、土の中の生き物が大きな有機物を小さな有機物に腐植化する、とか、また別の生き物が小さな有機物を無機物へ無機化するという話をしていました。そうしてできあがった無機物を、今度は植物が吸い上げて有機化しているわけですね。

そして、この植物が生長を終えて土の上に落ちると、また生き物によって腐植化・無機化されて、その無機物が植物に吸い上げられて有機化される・・・というサイクルをぐるんぐるんに繰り返します。

そこには生き物が食べて、生きて、排泄するという生活があります。

腐植化・無機化・有機化のサイクルが延々と続く。

目に見えるほどの量になる必須多量元素と、健やかな生長を支える必須微量元素、合わせてもたった17元素

ぶどう樹は生長期に、茎が1日に1センチも2センチ伸びるほど、目見にえて体が大きくなっていきますし、それに伴って葉の枚数もどんどん増えていきます。

それは空気中の二酸化炭素、土からの水と日光で光合成して作った炭素・水素・酸素の塊が、目に見えるくらいの量になっているわけです。一方で、ぶどう果汁をあれだけ甘く、そして酸っぱくさせているんですよね。

そしてこの生長が実現しているは、14種類の元素のおかげです。また、その設計図であるDNAさえも、必須元素でできた化合物だということがとても不思議です。というか私たちの体も宇宙全体も、限られた種類の元素でできているというのがとても面白いですよね。

 

こちらが音声版『宇宙ワイン』です。