無機肥料の機能を、植物目線と土目線で見てみようの巻

作物にとって1つの栄養素としての無機物は、有機肥料・無機肥料のどちら由来であろうとまったく同じように作用するのに、なぜ有機肥料と無機肥料を選んで使っているんでしょうか。それは、有機肥料と無機肥料とでは土にとって大きな違いが出るからです。

無機肥料のレシピ

植物の3大栄養素のうち、リンカリウムは鉱石を山から掘りだして肥料用にリン酸(H3PO4)や塩化カリウム(KCl)の形にして、さらに農業に使いやすいように工夫したものが製品になります。トラクターで撒いて常に均一に散らばるとか、溶けやすさ溶けにくさが調節されているとか、主成分が同じだからこそそういう企業努力があっていろんな製品になっています。

リンとカリウムは地球上に偏って分布しているので、産出される国もリンは中国やモロッコ、カリウムはカナダやベラルーシなどなどトップ10や12の国は変化しません。東京やブルゴーニュの地下を掘ってもどんどん出てくるようなものじゃなくて、運命的にもう決まっちゃってるんですね。

一方で窒素は、空気中に漂っている窒素分子をハーバー・ボッシュ法という高圧・高温で水素と反応させる技術で、アンモニアとして窒素を取り出して、肥料として使いやすく加工します。ハーバー・ボッシュ法は農業にとって非常に重要な技術なので、また個別にお話ししたいと思っています。

植物にとっての無機肥料は、そのままで栄養になれる

無機肥料は土に撒かれると、ただ水に溶けるだけですぐに植物の根から吸い上げられることができます。そのため即効性が期待できます。これは有機肥料との大きな違いですよね。一方で、土に入ってもすぐに根に吸い上げられない場合は、土壌の冷蔵庫(粘土腐植複合体)に固定されます。

ここで、植物の栄養になる無機物についてまとめておくと、2つの由来がありますよね。
1. 有機肥料が生き物によって腐植化と無機化されてできた無機物
2. 無機肥料に含まれていた無機物
重要なのは、無機物になってしまえば、有機肥料・無機肥料のどちら由来かは誰にも見分けることができないですし、植物の体の中でも同じように働くということです。

作物にとって1つの栄養素としての無機物は、どちら由来であろうとまったく同じように作用するのに、なぜ有機肥料と無機肥料を選んで使っているんでしょうか。それは、有機肥料と無機肥料とでは土にとって大きな違いが出るからです。

土にとっての無機肥料は、微生物の排泄物と同じ

人間が土に有機物を補充しないで農業を続けると、土の中で微生物が有機物を食べ尽くしてしまいます。冷蔵庫(粘土腐植複合体)の一部をなす腐植は冷蔵庫として非常に安定しています。だから、土の中で単体で存在している有機物の方が優先的に生き物に食べられていくという性質があるのですが、それでも単体の有機物が減ってくると、冷蔵庫の一部である腐植も生き物に食べられていきます。それは、冷蔵庫の重要部品である腐植が失われ、冷蔵庫が崩壊してしまうということです。

その状態の土に無機肥料だけを与える事は、この微生物にとってみると、自分には食べ物がないのに自分の排泄物ばかりがあるひもじい状況になって、微生物の種類も数も減っていきます。

それが何を意味するかというと、土を構成する5要素、無機物・有機物・生き物・水と空気のうちの2つ、生き物と有機物が欠ける状態です。

そうなれば冷蔵庫の特性である、植物の栄養素を固定する働きや、お互いに引きつけ合ってここに留まろうという力がなくなり、冷蔵庫の特徴的な質感であるお団子が失われますし、お団子とお団子の間の隙間も失われるので、空気の居場所がなくなり、雨水の吸収もできなくなります。それはつまり無機物・有機物・生き物・水と空気の5つの要素が強い関係性を持つ、システムとしての土の機能が失われている状態です。

また、冷蔵庫が不足しているので、せっかく与えた無機肥料が土に留まらずに雨水に溶けて流れ出たり、河川や海の汚染が問題視された時代もありました。

このように無機肥料と有機肥料にはそれぞれに機能があるため、それを意図によって使い分けることが重要です。特に、無機肥料を使うときには、冷蔵庫(粘土腐植複合体)もちゃんとメンテナンスする必要があります。

 

実際にぶどう畑に撒かれる無機肥料の種類

無機肥料のみ

元素が単体の肥料を単肥(窒素だけ、リンだけなど)、2元素以上を混ぜた肥料を複合肥料(窒素とカリウムなど)と言います。

無機肥料+有機肥料

有機肥料に任意の元素の無機肥料を混ぜた様々な製品があります。

※法律に則って有機農業をしたいときは、認可を得ている有機肥料のみを使うことになりますので、こういった無機肥料が混ざったものは使用することができません。

こちらが音声版『宇宙ワイン』です。