有機肥料の機能を、植物目線と土目線で見てみようの巻

有機肥料と無機肥料を比較してみると、同じ”肥料”という言葉がついているものの、その機能に大きな違いがあることに気がつきます。何を目的にその肥料を撒くのか、どんな農業をしたいのか、生産者の土に対する考えが現れる部分でもあります。

有機肥料のレシピ

有機肥料の材料は、生物由来の大きな有機物と微生物です。例えば馬の糞に藁をたっぷり混ぜるとかですね。そして時間をかけて微生物が大きな有機物を腐植化させ、中〜小の有機物にしたものが有機肥料として出荷されます。つまり、有機肥料には中〜小の有機物や微生物がたっぷり含まれています。

植物にとっての有機肥料は、生き物に無機化されてやっと栄養素になる

土に撒かれた有機肥料は、引き続き微生物によって腐植化と無機化されて無機物にまで小さくなります。そうすると水に溶けてイオン化し、やっと植物の根に吸い上げられます。この時にすぐに根に吸い上げられない無機物は冷蔵庫に固定されます。

つまり、有機肥料は植物の直接の栄養にはならないので即効性はない一方で、微生物さえ活動できれば持続的に栄養を補給することができます。一般的な土だと1日に1%の有機物が無機化されます。すごく大雑把にいうと、100グラムの有機物から次の日1グラムの無機物が出てくるという大体のイメージです。

土にとっての有機肥料は、冷蔵庫の重要部品の補充

ちょっと冷蔵庫について振り返っておきましょう。冷蔵庫(粘土腐植複合体)は、土の中で栄養素を固定しておけるのが特徴で、粘土と腐植とカルシウムの3つで成り立っていましたよね。

その腐植はつまり、有機肥料にたっぷり含まれる「中〜小の有機物と微生物が一体になったもの」です。なので、有機肥料を土に撒くということは、冷蔵庫を構成する要素の1つである腐植を与えているわけなので、これは冷蔵庫の重要な部品を補充していると言うことができます。

農業を続けていると、有機物は微生物によってどんどん腐植化・無機化され植物に吸い上げられるので、土の中で有機物が減ってきてしまいます。そこで、人間が有機肥料という形で腐植を補っているわけです。

つまり、この農地の生態系には、作物と人間が組み込まれている状態です。天然の環境であれば、食物連鎖のサイクルはおおむねこの場所だけで完結するんですけど、農業をしている環境であれば、作物を持ち出してしまうので、外から肥料を持ってこなければならない。でもなんでもいいから撒いてやれー、どんな量でもいいよっていうのではなくて、人間の知識や技術が加わっているんですよね。例えば、人間の計算や有機肥料を作る技術です。

だから農地の生態系には完全に人間が含まれているということです。それが農業の面白いところだと思いますし、ワイン作りの非常に興味深い側面です。

 

実際にぶどう畑に撒かれる有機肥料の種類

左から、畑に撒かれた堆肥、コンポスト、固形の有機肥料

堆肥

馬や牛の糞に藁を混ぜてしっかり腐植化させたもの。ブルゴーニュでは名産のシャロレ牛の飼育が盛んですし、併せて麦類の生産もありますので、堆肥は簡単に地産地消できます。

コンポスト

さまざまな植物や農作物を砕いたものに馬の糞を混ぜてしっかり腐植化させたもの。こちらもDijonの少し北に大きなコンポスト生産場があるので、簡単に手に入ります。

特定の効果を謳った”ブランドもの”

例えば、有機農法ではどうしても収穫量が下がりやすくなるところを、収穫量増に特化した有機肥料が販売されポピュラーになっています。アルプスの羊の糞と、この肥料のために選ばれた果物の果肉を混ぜてしっかり腐植化させたもの。有機農法を選択する生産者が増加することで、有機肥料の生産やブランディングが大きなビジネスになっていくのは面白い変化ですね。

有機農業に認定された畑には、肥料のラベルに有機農業に使えますとの記載があるもののみを使います。

こちらが音声版『宇宙ワイン』です。