ミルデュー(ベト病)に罹ったぶどうの葉の裏側
mildiouミルデュー(ベト病)とは、plasmopara viticola(プラスモパラ・ヴィティコラ)という名のカビが、春に発芽したぶどう樹のみどり色の器官に寄生することによっておこる病害だ。
ミルデュー(ベト病)は、おおくの野菜や果物や観賞用植物の栽培にとってやっかいな病害だけれど、くわしくみてみると植物ごとにことなる種類のカビがミルデュー(ベト病)をおこしている。
つまりにんじんにはplasmopara crustosa、じゃがいもにはphytophthora infestansというカビがついてミルデュー(ベト病)を起こしていて、それらのカビにぶどう樹が触れてもミルデューに罹らないというぐあいだ。
ここではもちろん、ぶどう樹にとってのミルデュー(ベト病)をみていこう。
ブルゴーニュは年ごとにミルデュー(ベト病)のリスクが変動する
ブルゴーニュは年によって天候条件が大きく変動するから、mildiouミルデューが蔓延するリスクは年ごとにまったくちがう。
猛暑で雨が降らなかった2003年のコート・ドールでは、もし1度も農薬散布しなくてもミルデューの被害は取るにたらないものだったろうと言われるし、2000年にそんなことをしていたら収穫作業が必要ないくらいの被害が出ただろうと言われている。
つまりミルデューのカビplasmopara viticola(プラスモパラ・ヴィティコラ)が好む気候条件の年に、対策をなにもしないでおけばおおくの収穫量を失いかねないし、ばあいによっては完全に失うことがありうるということだ。
ミルデュー(ベト病)が好む気候条件
mildiouミルデュー(ベト病)をひきおこすカビ、プラスモパラ・ヴィティコラの胞子が形成される条件は、湿度80%以上に気温13度以上だ。この組み合わせは、ぶどう樹が発芽する春から秋の収穫にかけて雨さえ降ればかんたんにそろってしまう。
ぶどう樹の生長期に雨が降るというこんなに頻繁におこる身近なできごとで、ぶどうの収穫を大量に失う危険性がうまれている。
シャンボール村の教会にかかる虹に、副虹も。
年によっては1日のうちになんども虹をみることがある。
雨雲の暗さと、それがとぎれた空からさす光のコントラストから畑の湿度がうかがえる。
ミルデュー(ベト病)をふせぐ方法
mildiouミルデューをふせぐには、原因のカビ、プラスモパラ・ヴィティコラがどのような性質かをよく知ることで効果的な対策ができる。
ébourgeonnageエブルジョナージュ(摘芽)
ぶどう樹に葉を茂らせすぎると風が通りぬけることができず、湿気がとどまりミルデューの温床になる。 エブルジョナージュ(摘芽)のときにのこす芽の数と位置を見極めることがたいせつだ。
たとえばguyot simpleギュイヨ・サンプルのばあい、剪定の時にbaguetteバゲットを長めに(芽を多くのこし)つくり、摘芽の時に芽と芽のあいだの芽を摘むことで、芽が生長し枝になったころ、枝や葉が茂りすぎず、日光や風を葉やぶどう房にじゅうぶんに届けることができる。
上の写真は、芽が生長しsarmentサルモン(新梢)になったころ。
バゲットに6本のサルモン(新梢)を、crocheクロッシェには決まりどおりの2本のサルモン(新梢)をのこしている。
1本のぶどう樹が合計8本のサルモン(新梢)をもっていれば、おおむね収穫量55hl/ha以上の計算になる。
エブルジョナージュ(摘芽)のときに、この❶~❻のうちさらに2つ3つ摘んでおけば、もっと風とおしよく日光がゆきとどく環境になる。栄養面では、そうして1本の樹の収穫量を減らすことで、ぶどう果粒によりおおくのエキス分を蓄えさせるという狙いも持てる。
また、バゲットから地面に向かって発芽する芽を摘むことも効果的だ。芽が生長し葉をたくさんもつ枝になったころ、土に触れて地表にいるmildiouミルデュー(ベト病)の原因カビplasmopara viticolaプラスモパラ・ヴィティコラが葉に感染するリスクがなくなる。
土にちかい葉が最初に感染することがほとんどだから、はじめての感染と、そこからの2次感染をも予防することができる。
くわしくは、それぞれの剪定方法にあわせたébourgeonnageエブルジョナージュ(摘芽)のページをご覧くださいませ。Vieille Vigneの仕立て方 もくじへ。
ミルデュー(ベト病)に対してはどうしても農薬散布が必要
ただ、いくら適切にébourgeonnageエブルジョナージュ(摘芽)をしても、mildiouミルデュー(ベト病)の被害はでうる。そこで現在、ミルデューの蔓延を防ぐためにおこなわれているのがtraitementトレットモン(農薬散布)だ。
トレットモン(農薬散布)のかわりとなるべく、ミルデュー(ベト病)の原因カビplasmopara viticolaの天敵となり病害をなくし、しかもそのほかの生態系に影響をださないような微生物が研究されているけれども、まだ時間がかかりそうだ。
となるとぶどう栽培にはトレットモン(農薬散布)が欠かせない。それはagriculture biologiqueアグリキュルチュール・ビオロジック((AB)有機農業)のぶどう畑にも、biodynamieビオディナミの農法を採用しているぶどう畑にとってもおなじだ。
どうしてもこの気候下でのぶどう栽培にはトレットモン(農薬散布)が不可欠だから、農法にあわせて農薬にはいろいろな種類や使用量の決まりがある。
ミルデュー(ベト病)とtraitementトレットモン(農薬散布)の関係とは・・
このページのはじめで2003年の例をあげたけれども、1度も農薬散布をしなくても大丈夫だった年というのは結果論で、春から1度も農薬散布しなかった生産者の経験談ではない。
それは蔓延してしまえば手の施しようがないmildiouミルデュー(ベト病)という病害と、それに対する農薬の特性、そしてブルゴーニュの気候条件が関係している。
それらはどういう仕組みになっているのだろう。ミルデュー(ベト病)の原因のカビplasmopara viticolaの生き物としての1年間のサイクルと、ぶどう樹の生長と気候条件をおってみよう。そうすることでブルゴーニュでのmildiouミルデュー(ベト病)という病害と農薬の特性の関係がみえてくるかもしれない。