41. traitementトレットモン(農薬散布): bouillie bordelaiseブイィ・ボルドレーズ(ボルドー液)の効果のしくみ

mildiouミルデュー(ベト病)に対する農薬には、ぶどう樹の栽培の農法にあわせていろいろな種類と使用量の決まりがある。

agriculture biologiqueアグリキュルチュール・ビオロジック((AB)有機農業)で使用がゆるされている農薬は、bouillie bordelaiseブイィ・ボルドレーズ(ボルドー液)が主流だ。4-4式ボルドー液は、100リットルの水に対して、生石灰400グラムと硫酸銅400グラムを溶かした混合溶液。

今日では、パウダー状のブイィ・ボルドレーズ(ボルドー液)が売られていて、水に溶かすだけでかんたんに散布することができるので一般的になっている。

agriculture biodynamiqueアグリキュルチュール・ビオディナミック(ビオディナミ農法)ではtisane d’ortieティザヌ・ドルティ(煎じたイラクサ)が有名。

こちらがortieオルティ(イラクサ)。右の写真は、切り株の真ん中ににおちた種から生えたイラクサ。

tisane d’ortieティザヌ・ドルティ(煎じたイラクサ)作り方の一例としては
1、イラクサの収穫の最良の時期は、開花期のはじめ。すぐに使わない場合は乾燥させておく
2、新鮮なイラクサなら0.8〜1Kg、乾燥させたイラクサなら100gを、3〜5リットルの冷たい水に入れ熱する
3、沸騰したらすぐに火をとめ、10〜20分間浸してから濾す
4、1haに散布するには35〜50リットルになるように水で希釈しディナミゼする

農法にこだわらないのであれば、法律で許されている化学農薬を使用することももちろん可能だけれど、アグリキュルチュール・ビオロジック((AB)有機農業)のラベルを取得していないドメーヌでも、ブイィ・ボルドレーズ(ボルドー液)のみでミルデュー(ベト病)対策している場合が少なくない。

ここではそんな一般的なブイィ・ボルドレーズ(ボルドー液)をみていこう。

bouillie bordelaiseブイィ・ボルドレーズ(ボルドー液)とは

硫酸銅と生石灰と水の混合液のことで、ボルドー大学のAlexis MILLARDETアレクスィス・ミラルデ教授によって、mildiouミルデュー(ベト病)に対して殺菌効果があることが偶然発見された。

このMILLARDETミラルデ教授、じつはフィロキセラがぶどう畑を壊滅させていたときに、アメリカ系のぶどう品種をヨーロッパのぶどう品種に接ぎ木することで、ぶどう畑を守った功績をももつワイン史上重要な植物学者だ。

agriculture biologiqueアグリキュルチュール・ビオロジック((AB)有機農業)では、化学的に抽出した成分を使用しないというのが基本の姿勢。

とすると、硫酸銅を使用するボルドー液は違反ではないかい。まったくそのとおりなのだけれど、ボルドー液なしにぶどう栽培をすると収穫を失う危険性があまりにも高いと判断され、1年に6000g/haの銅を超えないという制限つきで使用が許可されている。

しかも、硫酸銅は自然界にふつう存在している成分であるという説明もつけくわえられている。いっぽう、化学農薬は自然界にはない成分を化学的に合成・抽出してつくられた農薬であると説明されている。

また、日本でもボルドー液を使用した作物に「有機農産物」の表示をすることがJAS(日本農林規格)によって許されている。

ブイィ・ボルドレーズ(ボルドー液)はどのような仕組みで効果がでるのか

いきものがエネルギーを生じさせるために体の中にもっているシステム、クエン酸回路(TCA回路)。わてら人間も、植物であるぶどう樹も、mildiouミルデュー(ベト病)の原因のカビplasmopara viticolaプラスモパラ・ヴィティコラも、おなじクエン酸回路というシステムを使ってエネルギーを生じさせている。

人間は自分で糖分を作れないから食べる。ぶどう樹は光合成ができるから自分で糖分を作れる。プラスモパラ・ヴィティコラはぶどう樹に寄生して糖分を譲ってもらっている。

方法はちがっても体内にはいった糖分は、さまざまな酵素によって次々とことなる酸に変化し、そのたびに炭酸ガスと、水、そしてエネルギーを生じる。そのエネルギーのおかげで、わてらいきものは活動したり、生長したり、増殖したり・・つまり、生きることができる。というのがクエン酸回路。

ブイィ・ボルドレーズ(ボルドー液)は、ミルデュー(ベト病)原因のカビのプラスモパラ・ヴィティコラのクエン酸回路がうまく回らないように邪魔をすることができる

分子内に-SHの構造をもつ酵素、スルフヒドリル酵素のなかまが、クエン酸回路のとちゅうで活躍するのだけれど、bouillie bordelaiseブイィ・ボルドレーズ(ボルドー液)の銅イオンが、-SHの部分を酸化させることで、スルフヒドリル酵素のなかまは不活性になる。酵素のスイッチがオフになるイメージ。

おかげで反応されるはずだった酸は、次の酸になることができずに、クエン酸回路はサイクルが止まってしまうというわけ。だから炭酸ガスも、水も、エネルギーも生じなくなる。

ミルデュー(ベト病)原因のカビのプラスモパラ・ヴィティコラはぶどう樹から吸いとった糖分を、自らの生きるためのエネルギーにすることができなくなり、力尽きる。これがブイィ・ボルドレーズ(ボルドー液)がミルデュー(ベト病)に対して効果を発揮するしくみだ。

殺菌効果と、カビの侵入防止効果

つまり、bouillie bordelaiseブイィ・ボルドレーズ(ボルドー液)は、感染してしまったmildiouミルデュー(ベト病)原因のカビプラスモパラ・ヴィティコラを殺菌する効果を持っている。

また、ブイィ・ボルドレーズ(ボルドー液)は、ぶどうの葉や花の房に吹きつけられると、しっかりとその場にとどまるという特性があるおかげで、プラスモパラ・ヴィティコラがぶどう樹の葉や若い器官に触れたとしても、中に入り込めないようにするカビの侵入防止効果も持っている。

次回は実際のtraitementトレットモン(農薬散布)のようすをみてみよう。