その年の1回目の散布をいつにするかというtraitementトレットモン(農薬散布)をおこなううえでもっとも重要な決定、そして2回目以降の農薬散布のタイミングをどのように決めるのかをみていこう。
前ページまでで、この重要な決定のためにふまえておきたいことをみてきた。
mildiouミルデュー(ベト病)の原因カビplasmopara viticolaプラスモパラ・ヴィティコラの性質を知ると、気象予報を見ればその年のミルデュー(ベト病)について重要なことが3つ予測できるということをこちらのページでみてみた。
予測できる3つのこととは、その年のミルデュー(ベト病)の
・蔓延するリスクの高さ
・感染日
・感染から何日目に斑点が出るか
そして、実際の気象条件と照らしあわせて、予測を微調整することができる。
またbouillie bordelaiseブイィ・ボルドレーズ(ボルドー液)には、殺菌効果とカビの侵入防止効果の両方があるということをこちらのページでみてみた。
その年の1回目の農薬散布をいつにするか
春、ぶどう樹はあたらしい葉をつぎつぎに広げながら枝をのばしていくから、農薬散布のタイミングが早すぎると、bouillie bordelaiseブイィ・ボルドレーズ(ボルドー液)がついてない無防備な部分が増えてしまう。
1度で最大限のブイィ・ボルドレーズ(ボルドー液)の効果をえたい。けれども遅すぎるとリスクが高くなり、もしミルデュー(ベト病)の爆発的な生長・増殖・感染のサイクルがはじまってしまえば、止めることができない。だから1回目の農薬散布のタイミングはもっとも重要だ。
なにを目的にするかによって、そのタイミングはいくつかにわかれる。
“第1次感染を防ぐため”の1回目の農薬散布のタイミング
上の図では左から右に向かって時間が進んでいる。『雨=感染』とみなされるから、『雨の予報=感染の予報』となる。
なので第1次感染を防ぐ目的の場合、第1次感染日であるはじめての雨の日を予測し、その直前に散布する。bouillie bordelaiseブイィ・ボルドレーズ(ボルドー液)の、カビ侵入防止効果を利用するという考え方だ。
予報された雨で地面から跳ねあげられたミルデュー(ベト病)の原因カビのプラスモパラ・ヴィティコラが、ぶどう樹の若い器官から侵入しないように、霧状に吹きつけられたブイィ・ボルドレーズ(ボルドー液)が、葉や花の蕾の房などの表面で待機して予防する。
このタイミングの場合、いつ雨が降るかという正確な気象予報が大切だ。予報した日に雨が降らなかったら、今日ははずれたねですむけれど、逆の場合そうはいかない。
だから雨の予報がなくてもぶどう樹が発芽し葉が5~6枚広がったら、第1次感染を防ぐ目的で1回目の農薬散布をおこなう生産者もいる。
“第2次感染を防ぐため”の1回目の農薬散布のタイミング
上の図では左から右に向かって時間が進んでいて、雨が降ったときを第1感染とみなしている。
第2次感染を防ぐ目的のばあい、mildiouミルデュー(ベト病)蔓延のリスクが低いと判断された年であれば、1回目の農薬散布は実際に斑点をみつけた後でよい。上の図の青の印のタイミングだ。
いっぽう、ミルデュー(ベト病)蔓延のリスクが並~高いと判断されていれば、1回目の農薬散布は、斑点が出現すると推定される直前におこなうべきとされる。感染日から斑点が出るとされる日までを正確に予測することで2次感染を防ぐという考え方だ。
どちらの場合も第1感染~潜伏期間までは手をださず、ブイィ・ボルドレーズ(ボルドー液)の殺菌効果によってミルデュー(ベト病)の原因カビ、プラスモパラ・ヴィティコラを減らし、またカビ侵入防止効果によって2次感染を防ぐ2点を期待している。
2回目以降の農薬散布のタイミング
考慮に入れるべき要素は3つ。
ぶどう樹の生長具合
春から夏にかけてのぶどう樹の生長は速く、あたらしく何枚もの葉がおおきく広がる。そのあいだに散布がおこなわれなければ、無防備な部分がどんどん増えるということだ。
ぶどうの房の生長具合
ぶどうの花の蕾の房はぶどう房として収穫されるまで、開花・受粉・結実・ふくらんで果粒どうしが密着する・色づき・成熟という生長をはたす。
雨
その無防備な部分にとってはいつでも、『雨=感染』として考える。
これら3つの要素を、以下の項目と照らし合わせてタイミングを決める
・リスクが平均的な年であれば1回目の散布から、ふくらんで果粒どうしが密着する時期までに1度はおこなう。
・最後の散布は色づき中期よりもあとにおこなう。
・『雨=感染』を念頭に、bouillie bordelaiseブイィ・ボルドレーズ(ボルドー液)の殺菌効果とカビ侵入防止効果を考慮する。雨の前におこなうのが一般的だろう。
ミルデュー(ベト病)の斑点がたくさん出てきてしまったばあい
天候条件が厳しくリスクが高い年に、1回目・2回目以降の農薬散布のタイミングがうまくかみあわなかったりして、mildiouミルデュー(ベト病)が重症化してしまった区画には、4~5日間隔で2度散布する。
活発に生長・増殖しているプラスモパラ・ヴィティコラをbouillie bordelaiseブイィ・ボルドレーズ(ボルドー液)の殺菌効果によって減らし、カビ侵入防止効果によって次の感染を防ぐことで、できあがってしまった生長・増殖・斑点の出現・胞子の形成・感染のサイクルを断ち切ることを期待する方法だ。頻度をあげて2度くりかえすことによって、より高い効果がえられる。
このようにミルデュー(ベト病)の原因のカビのプラスモパラ・ヴィティコラの生き物としてのサイクルと特徴、そしてブイィ・ボルドレーズ(ボルドー液)が効果を発揮するしくみを知ると、的確なタイミングでトレットモン(農薬散布)をおこなうことができることがわかった。
しかもその年の天候条件と、それぞれのclimatsクリマ(ぶどう畑の区画)の特徴からくる畑の状態のちがいや、その区画のぶどう樹の生長段階をふまえることで、その年のミルデュー(ベト病)に対するきめこまかい対応ができる。