1. Vieille Vigneヴィエイユ・ヴィーニュの仕立て方 はじめに

畑は夏々の常暑。
金曜日、仕事を終えて家に帰ったら、集まった人とアペリティフをはじめよう。

近所のドメーヌで定年まで勤め上げた引退組、現役の若者、中堅・・老若男女である。おつまみにがっつきながら、世界で一番おいしいアリゴテをいっき飲み。
さてさてっ。

かの浜崎伝助先生はそのシリーズ特別版冒頭において「釣りはイメージのスポーツだ」と仰っているが、まったく同じことが、ぶどう畑での仕事についても言えるように思う。

時間という水面の下に隠れたぶどうの生長を、短期・中期・長期的にイメージし、そのときできる最善の仕事を施すからだ。

イメージすべき領域は多岐にわたる。
ぶどう樹の生長、ぶどう房・実の質、収穫量、土の質、ワインの味わい、ワインがどのように熟成を果たすかなどなど・・ときどき今日の夕飯もイメージする。
働き手によっても様々だ。

経験や知識が増えるにつれ、自分の考えが生まれる。これは何の仕事でも同じだろう。そのときの仕事に応じた自分のテーマについて、誰かに相談したり、意見を交換したりすることは非常に興味深い。

しかも短期的にしか畑を知らない私にとって、長老方のお話はgrands vinsそのもののような魅力とそして笑いに満ちている。

確かめようのない想像が大半をなす場合もある。しかし疑問を言葉にし、意見を述べ、自分一人では想像もつかなかった意見を得ることによって、より深くぶどう樹の可能性を探ることができる。明日からの仕事の精度も上がるというわけだ。

アペの〆は焼いといた庭のいちごのタルト。
       
とろとろのカスタードクリームの中に、例のいちごの蜜飴を仕込んだ。
絶賛の嵐である。

そんなこんなで、『Vieille Vigneヴィエイユ・ヴィーニュの仕立て方』と題してぶどう畑の仕事について少し書きはじめようと思う。
不確かな情報が混ざることも充分にあり得る。が、それを恐れすぎないことにした。

どうぞ気軽にお読みくださいっ。