植物にとっての冷蔵庫は、土の5要素の結びつきを強める

今回は前回に引き続き、冷蔵庫の話後編です。

「宇宙ワイン」の第1回で、土とは無機物・有機物・生き物・水・空気の5要素がお互いに関係し合うシステムのことだと書きました。土の冷蔵庫”粘土腐植複合体”はこの5要素を網羅しているし、5要素の関係性をより強固にする性質があります。

 

無機物・有機物・生き物・水・空気と冷蔵庫

植物にとっての冷蔵庫“粘土腐植複合体”は、無機物の粒子である粘土鉱物に、有機物である腐植がカルシウムによってくっついているものです。

腐植は特に中くらい〜小さいサイズの有機物のことです。つまり、腐植があるということは生き物がしっかり生活しているということが予想できますよね。なぜなら、初めは大きかった有機物は必ず、生き物によって食べられて排泄されないと、中くらいのサイズの有機物にはならないからです。そして、そのように生き物が生きているということは、そこに水も酸素も充分にあると言えます。これで土の5要素が網羅されているという、ここまでが前回までのおさらいです。

 

冷蔵庫があるおかげで、5要素の関係性が強まる

まず、冷蔵庫のおかげで土は植物が根を張りやすい柔らかさになっています。この質感は粘土腐植複合体のもとからの性質です。そしてこれは土からしてみると、根っこに程よい力でマッサージされているような感じです。根っこが生長したり、栄養を吸い上げるその活動が、土をたくさんのお団子にまとめ上げてくれます。

次に、たくさんお団子ができたおかげで、お団子の隙間すきまに空気が入り込みます。空気があると生き物が酸素を使うことができます。

そして、雨が降ってくるとこの空間にあった空気と入れ替わることで、雨水がさっと土に吸収されます。土に吸収された雨水は、生き物や植物に吸収されたり、下っていって地下水になっていったり、太陽に乾かされたりしながらこの土から出ていきます。その出ていくその瞬間に地上の新鮮な空気がまたお団子の隙間に入ってきます。なので、雨は土の中の空気の交換をするために、とても重要な役割を果たしているということです。

土の中では生き物が呼吸しているので、どうしても二酸化炭素の濃度が高まりますが、こうして雨が土の中の空気を押し出してくれるおかげで、地上のより酸素の多い空気が土の中に入ってこられます。

その豊富な酸素のおかげで、生き物が活発に食べて生きて排泄できます。そして命を全うすれば大きな有機物となって、腐植化・無機化されて植物の栄養になることができるし、植物も枯れたり落葉すれば大きな有機物となって他の生き物の栄養になります。このように、冷蔵庫があると無機物・有機物・生き物・水・空気の5つの要素の結びつきがより強固になります。

ここまでをまとめると、冷蔵庫は「植物の必須栄養素を固定」しておけたり「雨が降っても栄養素が流れ出さない」というこれぞ植物の冷蔵庫という機能だけじゃなくて、土が土として機能していられるその根幹をなしているとも言えそうです。

土というものには太陽の存在が溶け込んでいる

人間からしてみると、茶色いとこが土で、緑のとこが植物で、動いてるのは動物って名前をつけて分類しながら見ているわけですけど、この循環を考えてみると全体でひとつなんだなという感じがしてきます。

そして、そこには絶対的に太陽が必要で、太陽と地球の関係性の中でやっとその循環が生じるわけですよね。気温もそうですし、光で光合成するわけですし、もっとそもそもなことを言ってしまえば、地球は太陽系の惑星の一つにすぎないので、太陽なしに地球ってありえないわけですけれども。

とは言え多様な生命が繁栄するのは、太陽ではなくて地球側なんだなというのが面白いです。太陽の光って、美しくてなんだか万能な感でがして憧れの対象なんですけど、太陽にぶどうの樹って育たないんですよね。太陽のテロワールってどんなだろと思ってピノ・ノワールを植えようとしても無理じゃないですか。

ところが、その地球側ではピノ・ノワールを植えれば国や地域ごとに多様なワインができてくる。私はこの区画のワインの香りが好きだとか、俺はこっちがいいとか、土地というもの、地球の表面のさまざまな場所をおもしろがっている。でも、その土は太陽がないと成り立てない。そもそも土というものには太陽の存在が溶け込んでいるんです。地面と太陽は別々のものではなくて、切り離すことができない一体のもので、ワインもその一部という感じがしてきます。

こちらが音声版『宇宙ワイン』です。