58. enherbementオンネルブモン(ぶどう樹以外の植物をはやしておくこと)

ぶどう畑にぶどう樹以外の植物がはえているのは、あたりまえのことだ。だから抑えたり、取り除いたり、撲滅しようとしたりするする必要はないという考え方がある。

これらの植物もぶどう畑の環境の一部をなしているのだから、環境の1要素としてほかの要素と同じように、利点を見出していくとどうなるだろうか。

また、利点をより追求し、好ましい植物を積極的にはやすこともできる

enherbementオンネルブモン(ぶどう樹以外の植物をはやしておくこと)の利点

に対しての効果と、ぶどう樹に対しての効果に分けて考えてみよう。

土に対しての効果

土壌の浸食を防ぐ

草がはえていれば、空から落ちてきた雨粒が直接土にあたることがない。水分は草をつたってやさしく土に到達する。また、草の根がしっかりと土を掴んでいるから、土が雨水によって流出してしまうリスクを抑えることができる。

トラクターのタイヤ、馬や人の足が直接土に触れないため、土がそれらにくっついて畑の外へ運び出されるリスクを抑えることができる。

安定的な有機物の供給

草そのもの、そして草のある環境を好む生き物があつまることによって、地表に生物の多様性がもたらされる。

こうした生き物には生命活動と、それを終えたときから再び始まる有機物としての貢献がある。こうして土と大気のあいだに植物の層が1枚あることで、土に安定して有機物が供給されるのだ。

おかけで土中にも微生物やミミズなどの生き物の数が増え、土により力強いサイクルが生まれる。

根による耕起の作用

草の根が繁栄することで、土に無数のちいさな空間ができるから、空気を充分に含み、雨が降れば高い透水性を発揮する土壌となる。

ある生産者から、ぶどう樹のごく近くの土を深くまでほぐすために、日本の大根を栽培できないか?と相談されたことがある。

ラブール(耕起)の器具が入らないような深さに、大根の生長速度でゆっくりと到達し、だけれども硬くなった土を確実にほぐすことができるのではという考えだ。大根ならぶどうの根を傷つけることはないだろうし、どうしても植物や微生物など、生き物の力だけでラブール(耕起)を成し遂げてみたいという。

んで、その収穫した大根数千本、どうするつもりなの?・・はっとして・・・爆笑。あ。日本にたくあんていうのがあるんだけど。糠と塩とMLF直後の澱を混ぜて、干した大根を古い樽で漬けたら、ドメーヌ印のたくあんで売れるんじゃない?乳酸発酵の食品だから、ワインにあうんじゃ・・。

大根はそのまま土に戻したいし、たくあんは笑い話になってしまったけれど、大根ラブール(耕起)は実験計画極小規模で進行中だ。

ぶどう樹に対しての効果

自生の植物をそのままはやしておくことは、植物の種類によってはぶどう樹の競合になりうる。とくにイネ科の植物を永続的にはやしておくと、水分と窒素を主とする無機物の競合をまねくことが知られている。

しかし、これらの植物との競合の作用を、利点としてとらえることができる。

ぶどう樹の樹勢を抑える

ぶどう樹の樹勢がつよすぎると判断した場合、競合する植物を積極的にはやすことで、ぶどう樹の生長を抑えるという考え方だ。

イネ科の草がそのぶどう畑の区画に定着してからはじめの2~3年はぶどう樹の樹勢はそれほど変化せず、その後低下してくる。この樹勢の低下は、植物をはやしてある面積、植物の種類、その年の天候によって変化する。

そして7~8年後に、ぶどう樹とこれらの植物が土をはじめとする環境の中で、あたらしいバランスを確立する。

ぶどうの収穫量の低下

樹勢ほどではないけれど、ぶどうの収穫量の低下という影響が出る。この収穫量の低下というのは、
・ぶどう樹1本あたりのぶどう房の数の減少
・ぶどう1房の重さの減少
・ぶどう1房あたりのぶどう果粒の数の減少
・ぶどう1果粒の重さの減少

ぶどう果汁の成分の変化

収穫量にあきらかな違いがでるころ、ぶどう果汁の成分にも変化があらわれる。糖度がより高くなり、リンゴ酸が低くなる。酒石酸は変わらないのでpHが下がる。黒ぶどうはより多くのアントシアニンやポリフェノールを含むようになることが観察されている。

くわえて、イネ科の植物との競合で特徴的な窒素を多くとられことによる、窒素系の物質の含有量の減少が指摘されている。

アルコール醗酵中に酵母によって消化吸収される窒素は、不足すると最悪の場合アルコール醗酵が止まってしまうリスクがある。どの種類の植物がどれほどはえているのかによって醸造の質にちがいが出うる。

オンネルブモン(ぶどう樹以外の植物をはやしておくこと)を実践できる畑

コート・ド・ニュイのぶどう畑は、今までにも見てきたとおり、低く仕立てられたぶどう樹が密植されているという特徴がある。つまり、すでにぶどう樹どうしが競合することが想定されている。

だから、オンネルブモン(ぶどう樹以外の植物をはやしておくこと)を永続的におこなうには、充分な深さのsolソル(土壌・表土)が、粘土質を25%以上を含んでいて、かつ確実に有機物を備えていているということが条件となる。

そのために土壌の成分の分析や、それまでにおこなってきた農法をよく鑑み、ぶどう樹をよく観察する必要がある。

また、ぶどう樹の苗を植えてから少なくとも2年以内は、オンネルブモン(ぶどう樹以外の植物をはやしておくこと)を控えたほうがいいとされている。若い樹にしっかりと根を張らせるためだ。

穂木・台木それぞれの樹勢の強さを考慮にいれることも重要といえる。

はやしておく植物の種類

好ましい種類の植物の種をまいてはやしておく

そのぶどう畑の区画の特徴にあわせて選んだ植物の種を1種類、もしくは複数ミックスして蒔き、栽培する。

たとえばray-grass anglais(ライグラス)、fétuque élevée(オニウシノケグサ)、pâturin des près(ナガハグサ)などがよく選ばれている。

ray-grass anglais(ライグラス)の穂。表と裏

これらは牧草としても、道端にはえている草としても一般的な植物だ。

選ばれる理由は、ぶどう畑の土壌へ比較的かんたんに定着する、踏みつけに対する強度がある、刈り込みの頻度が少なくすむ、乾燥に対する耐性がある、ぶどう樹に対する競合が強すぎないことなどがあげられる。

自生の植物をそのままはやしておく

どんな植物であろうとそのままはやしておく方法と、好ましくない植物だけは手や鍬で取り除く方法がある。上の項で挙げた種をまいてはやす植物も、じっさいはその他の植物とともに、種をまかなくてもすでにぶどう畑にひろく繁栄している。

どちらの場合も、はやしっぱなしにしておくこともできるし、ぶどう樹の健全な生長を妨げる高さになる前に、短く刈り込むか、ラブール(耕起)をおこなうこともできる。

充分な日光がしっかりぶどう樹まで届くように、風通しがよくなるように、traitementトレットモン(農薬散布)が最小限の量と回数で効果的におこなえるように、ぶどう樹以外の植物の高さを調節するのだ。

刈り込むだけなら、常に草の層を保つことができるし、ラブール(耕起)も根絶やしにしないよう軽くおこなえば、植物はまた生長をはじめる。

また、刈り込んだ草をこうして敷きつめておくことで、雨の跳ね返りで感染する春夏の病害の対策にもなる。

植物をはやしておく部分

ぶどう畑の地面を2つの部分に分けると、ぶどう樹が並んでいる列の部分 と ぶどう樹の列と列のあいだの部分 になる。オンネルブモン(ぶどう樹以外の植物をはやしておくこと)では、

ぶどう樹の列と列のあいだの部分にだけ草をはやしておく方法

トラクター、馬や人の通過の直接的なストレスから、植物の層がクッションの役割を果たすけれども、ぶどう樹のすぐそばには日光や通風、農薬を妨げるような茂みがない。

2つの部分両方、つまり全体に草をはやしておく方法

その植物が繁栄している面積が大きいほど、ぶどう樹との競合の作用は強くあらわれる。

があり、

・種をまくのか
・自生の植物をそのままにはやしておくのか の選択

・はやしっぱなしにするのか
・刈り込みをおこなうのか
・labourラブール(耕起)をおこなうのか の選択を

組み合わせながら総合的に考えていく。

ぶどう畑のぶどう樹以外の植物は、terroirテロワール①の要素の1つである

ぶどう畑のぶどう樹以外の植物は、ぶどう樹の樹勢に強く関係していることがわかった。くわえてぶどうの収穫量に関与し、ぶどう果汁の質にも影響をあたえる。このことからぶどう畑のぶどう樹以外の植物は、terroirテロワール①の要素の1つであるといえるだろう。

そして、ぶどう畑のぶどう樹以外の植物の量や質や生やすタイミングをコントロールするための仕事も、テロワール①の要素の1つとして数えることができる。