54. labourラブール(耕起): 土とは、なんだろうか

ぶどう樹が植わっている畑の土を耕すことが、labourラブール(耕起)だ。

土を耕す。耕すってなんだろう。
ん?そのまえに、土ってなんだ。身近すぎてよく知らないぞ。
そして身近といっておきながら、どこからどこまでを土と呼んでいいのかもあやふやだ。

ぶどう畑の3つの層

ぶどう畑の地面を掘っていくと、次々と異なる層が姿をあらわす。

だから土壌をあつかう学問では、層を数えていくつにも細かく分類しているし、そもそも観点によって数十の分類方法がある。ここでは、ぶどう栽培の仕事の中で重要視される3つの層をみておこう。

・solソル(土壌・表土)

耕せる土の部分の層
ラブール(耕起)の仕事の対象になるのはこの層だ。コート・ド・ニュイの村名以上の格のぶどう畑は地表から35~70cmまでの深さがソル(土壌)だといわれている。深さは区画によってことなり、ちなみにロマネ・コンティのソル(土壌・表土)は40cmだ。

・sous-solスー・ソル(solソル(土壌)の下の層)

土はあるものの大きな石や岩が混在していて、耕すことができない層

・roche mèreロッシュ・メール(母岩)

sous-solスー・ソル(solソルの下の層)のさらに下の層。
詳しくはこの後で見ていきます。

シャンボール村のすべてのドメーヌでつくる組合が、ブルゴーニュ大学の地質学の先生をよんで
みんなで自分たちの村の地質の勉強会。助手の方がちっちゃなショベルカーで
いくつもの区画をスー・ソル(土壌の下の層)が現れるまで掘っていく。
掘る区画、掘る区画、みごとに特徴がことなる。

ここは15センチ掘ったところでロッシュ・メール(母岩)にたどり着いてしまった。
もちろんぶどう樹は植えられていない。赤く見えているのは筆者のボールペン。

そして土。土とは、なんだろうか

土には、いろんなものが混ざり合っている。そのすべてを分類しみてると、無機物・有機物・水分・空気・生き物という要素になる。

それでは、ブルゴーニュのコート・ド・ニュイのぶどう畑の土の要素をみていこう。

無機物

岩石が風化してできた、大小さまざまな石ころ。地質学では直径2mm以上の粒をgravesグラーヴ(礫(れき))と呼んでいて、直径によって4種類に分けている。
2~4mm granulésグラニュレ(細礫)
4~64mm graviersグラヴィエ(中礫)
64~256mm gros caillouxグロ・カイユー(大礫)
256mm以上 blocsブロック(巨礫)

コート・ド・ニュイのぶどう畑では、区画によってはこれら4種類の大きさのgraveグラーヴ(礫)すべてを見つけることができる。

しかしぶどう樹の苗を植えたり、ラブール(耕起)を円滑におこなうために、グロ・カイユー(大礫)やブロック(巨礫)は取り除かれることがおおい。

そしてコート・ド・ニュイのぶどう畑を特徴づける無機物といえば、粘土だ。岩石が風化し、1/256 mm以下という小さい粒子になり、それらが集まってできたargilesアルジル(粘土)。

また、argilesアルジル(粘土)を15%以上(または20%以上という分類方法もある)含んだ土壌を、sol argileuxソル・アルジルー(粘土質土壌)と呼んでいる。この語はぶどう畑の区画のプロフィールを読んでいるとよく出てくるのではないだろうか。

もう1つ、コート・ド・ニュイのぶどう畑を特徴づける無機物といえば、calcaireキャルケール(石灰質)。石灰質については動画講座で詳しく触れている。

「岩石が風化して~」という表現を何度かしたのだけれど、この「岩石」こそが3層目のロッシュ・メール(母岩)だ。ぼがん。かーちゃんの岩。誰のかーちゃんかというと、そう。大小さまざまな石ころ(礫)や粒子たちのかーちゃんだ。

かーちゃんが途方もなく長い時間たたずんでいた場所の環境によって風化されてきた結果が、この畑の無機物なのだ。

だからかーちゃんの性質によって、この区画の特徴が左右されるということになる。かーちゃんの誕生や、かーちゃんの成長、かーちゃんたちの種類などは、動画講座のページに譲ろう。

有機物

大小さまざまな生き物の死骸、ぶどう樹の落ち葉、それ以外の植物の生命活動を終えた器官。agliculture biologuiqueアグリキュルチュール・ビオロジック(有機栽培)が採用されている区画の場合は、コンポストや有機肥料など。

くわえて、それらが微生物に代表される生き物よって分解(humificationユミフィカスィオン(腐植化))されてできる腐植も有機物だ。

そして、この腐植をさらに微生物が分解(minéralisationミセラリザスィオン(無機化))すると無機物になり、水にイオンとして溶けると、植物が根から吸い上げることができるから、生長のための栄養になる。

また、アルジル(粘土)は電荷を帯びていて、イオン化した無機物を引きつけけておける。

植物の根からしてみると、そんなソル・アルジルー(粘土質土壌)は栄養素をたくさん用意しているレストランのような存在だろうか。となると、微生物たちは料理人のような立場かもしれない。微生物にしてみれば、ただ生きているだけだけど。

水分

土は大小のお団子のようなかたまりの状態だから、水分はその隙間に溜まって存在している。

水を主成分に、さまざまなイオンや有機物が溶けたり、混ざったりしている。栄養素がいくらたくさん土中にあっても水に溶けていないと、植物の根は体内に取り込むことができない。

空気

水分と同じように、土のかたまりとかたまりの隙間に存在している。二酸化炭素、窒素、水蒸気、酸素など。その成分は土の中の生き物の呼吸に影響される。

生き物

もぐら、ミミズ、大小さまざまな昆虫(成虫になれば飛び立つ虫でも、幼虫は土の中という場合も)、ダンゴムシ、ムカデなど足の多い虫、クモ・ダニ、線虫、原生動物・・・

また、カビ・キノコなどの菌類・細菌類など。土の中や、植物の根の表面や表皮下に生きる微生物は研究者が歓喜するほどに多様で、目下研究が進められているところだ。厳密な種類や性質やその数など、わかっていることは限られているということだ。

有名どころでは、虫の仲間でフィロキセラ、そしてオイディウム、ミルデューが代表するような増えすぎるとぶどう栽培に害をあたえる菌類も表土や、地中で生きる。

土の世界

土を構成する要素、無機物・有機物・水分・空気・生き物がそれぞれにとって必要不可欠で、サイクルを形作っている。土というのは物の名前というより、このサイクルやシステムの名前という感じがしてくる。

植物動物もその生命活動を終えると、からだは有機物として各種生き物によって分解される。有機物生き物に分解されて無機物になり、に溶けると植物に吸収されて栄養になる。生き物にとっては、有機物は栄養であり、水分空気も生きるために必須だ。粘土質の土壌は腐植と一緒になると、植物の栄養となる無機物をイオンの形で大量に蓄えておくことができるし、隙間に水分空気をたもっている。

こんなふうに土とそこに生える植物という関係のなかで、ぶどう樹は果実をめぐみつつ、vieille vigneヴィエイユ・ヴィーニュ(ぶどうの古木)になる。

年や畑ごとにそのぶどう果粒は甘かったり酸っぱかったりしながら、醸造され熟成し、おおくの人に味わわれ、料理とあわされたり、ワインのおおきな世界につながっていく。

強烈に記憶に残ったり、おおくの人へ共通のテロワールの記憶を与えるワインは、こうして土からはじまっているんだ。

ぶどう樹が植わっている畑の土を耕すことが、ラブール(耕起)。耕すことで、無機物・有機物・水分・空気・生き物にどんな影響があるのだろう。次回へ続く。