春のévasivageエヴァズィヴァージュ(摘芽)と冬のtailleタイユ(本剪定)が組合わさることによって、10歳と70歳のぶどう樹はならんで1列の同じ高さの垣根になることができる。
ではguyot simpleギュイヨ・サンプルの場合、どのgourmandグルモンをのこせば樹齢70年で40cmのvieille vigneヴィエイユ・ヴィーニュ(古木)を仕立てられるんだろうか。
樹が高く生長してしまったguyot simpleギュイヨ・サンプルの2012年のévasivageエヴァズィヴァージュから、2014年4月のattachageアタシャージュ(バゲットの固定)までの流れをおってみよう。
gourmandグルモン(徒長枝)をcrochetクロッシェに育てる
vieux boisヴュー・ボワ(2歳以上の部分)から発芽した芽(gourmandグルモン(徒長枝))をcrochetクロッシェに育てることで、ぶどう樹を一定の高さに保つことができる。
これがvieille vigne(古木)を仕立てるための基本的な発想だ。詳しくみてみよう。
évasivageエヴァズィヴァージュ 2012年5月
上の図のぶどう樹には、vieux boisヴュー・ボワ(2歳以上の部分)から発芽した芽(gourmandグルモン(徒長枝))が3つある。その中から1つを『のこしたい芽』に選んだ理由は、
・その位置が高すぎなく低くすぎないこと。
・枝に育ったときに垣根のからとびでない方向に発芽していること。
ここに将来のcrochetクロッシェを位置させるのだから、慎重に選んでだいじに育てたい。
tailleタイユ(本剪定) 2013年2月
gourmandグルモン(徒長枝)についている芽は、2013年4月に発芽して立派な枝になってもぶどう房をつける可能性が低い。だから今回の剪定ではcrochetクロッシェにはなれない。そのかわりpetit crochetプティ・クロッシェになり、2014年の剪定を待つのだ。
attachageアタシャージュ(baguetteバゲットの固定) 2013年4月
guyot simpleギュイヨ・サンプルの場合、本来のcrochetクロッシェには2つの役割がある。
・2つの芽が発芽し枝になり、ぶどうを恵んでくれる。
・その枝がその次の年のcrochetクロッシェとbaguetteバゲットになる。
けれども、上の図のguyot simpleギュイヨ・サンプルは例外の状態。
この年はバゲットだけでなくクロッシェもぶどうを恵んでもらうためだけにつくる。そして来年のバゲットとクロッシェになる枝を恵んでくれるという本来のクロッシェのもう1つの役割は、petit crochetプティ・クロッシェに担ってもらう。
tailleタイユ(本剪定) 2014年2月
さてさて、petit crochetプティ・クロッシェは2013年の春夏の生長期に、立派な2本の枝を恵んでくれた。この2本の枝の芽は次の春に発芽し、ぶどう房をつける。だからクロッシェとバゲットを1つずつつくる。通常のguyot simpleギュイヨ・サンプルに戻ったわけだ。
attachageアタシャージュ(baguetteの固定) 2014年4月
こうして、一度は背が高くなりすぎてしまったぶどう樹を、40cmの高さに張ったfil de tailleフィル・ド・タイユにバゲットを水平にattachageアタシャージュ(固定)できるまでに仕立てなおすことができた。
もちろんぶどう樹は毎年しっかりぶどうを恵みながら、こうした変化をしている。
未来のぶどう樹の姿を予測する方法
数年間の仕事をこうして1ページにまとめてみると、あらためてébourgeonnageエブルジョナージュとévasivageエヴァズィヴァージュの2種類の摘芽、そしてtailleタイユ(本剪定)の3つの仕事をいかにうまく組み合わせられるかが大切だとわかる。
そしてその組み合わせをうまく機能させるためには、春の2種類の摘芽のときには来冬の剪定の選択肢を、冬の剪定のときには来春の摘芽の選択肢をつねに念頭においておくことがポイントになる。おかげで、数ヶ月後、来年、数年後、数十年後のこのぶどう樹の姿を幾通りにも予測することができるし、その中でももっとも優れた姿を選択できるからだ。
また、ぶどう樹の将来の姿を予測するために欠かせないのが、ぶどう樹の生理と解剖を覚えて仕事中にいつも心がけることだ。芽や枝は単体では見た目でそのちがいを判断するのがむずかしい。だから解剖学的にぶどう樹のどこに発芽しているのかを見極めることで、ことなる性質をもっている芽や枝に役割をおわせることができる。たとえおなじ剪定方法で仕立てられているぶどう樹でも、1本いっぽん状態はちがうから、むずかしくておもしろい。
ぶどう樹と働き手の思考が一体となり仕事を日々重ねていくことで、ぶどう樹は一定の高さをたもちながら健康に年を重ね、質の高いぶどうを恵んでくれる。1つひとつがvieille vigneヴィエイユ・ヴィーニュを仕立てるためにかかせない仕事だ。