14. tailleタイユ(本剪定): guyot poussardギュイヨ・プーサールの考え方

最近コート・ド・ニュイのピノ・ノワールに取入れられているあたらしい剪定方法、guyot poussardギュイヨ・プーサールを見ていこう。

ぶどう樹の解剖と生理をよく知ったからこそ生まれた仕立て方で、guyotギュイヨcordonコルドンをはじめとする今までの剪定方法からさらに1歩進んでいる。

ギュイヨ・プーサールは、20世紀初めにシャラント県のぶどう栽培家であるPoussardプーサール氏によって考え出された。その名前のとおりギュイヨに属する仕立て方だ。

guyot simpleギュイヨ・サンプルと同様に1本の樹にcrochetクロッシェとbaguetteバゲットをそれぞれ1つずつつくる。

しかし、ギュイヨ・サンプルにはなかった1年毎のクロッシェとバゲットの位置の交換という新しい方法が導入されている

それは、ぶどう樹のなかにbois mortボワ・モー(枯れた部分)をできるだけつくらないための工夫だ。

guyot poussardギュイヨ・プーサールの剪定方法にのっとって仕立てるためには、ぶどう樹の外観をよく観察するだけでなく、内側をイメージする必要がある。

ギュイヨ・プーサールの考え方

ぶどう樹の幹を中心に、向かって右側にのびていく枝と、左側へのびていく枝、それぞれに通じる、樹液をとおす2本の管を樹のなかにイメージする

ぶどう樹にはしっている、水分や栄養素がまざった樹液が流れる維管束を、管としてできるだけ単純にイメージしているのだ。

例えば、この若いぶどう樹。guyot poussardギュイヨ・プーサールに仕立てようと準備中。

この樹のなかにはこんなふうな2本の管をイメージできる。ギュイヨ・プーサールでは、つねにこの2本の管をイメージしながら仕事をする。剪定でも、摘芽でもだ。

ギュイヨ・プーサールではぶどう樹の中に2本の管をイメージする。

ギュイヨ・プーサールの考え方では、何があってもこの2本の管をつぶさないよう剪定する。そして、この2本の管の太さのバランスを保つことが重要だ。

そうすることで、bois mortボワ・モー(枯れた部分)をできるだけつくらずに、ぶどう樹の健やかな生長がいつまでも続く。vieille vigneヴィエイユ・ヴィーニュ(ぶどうの古木)を仕立てるための理想的な剪定方法のひとつと言える理由だ。

では、この2本の管を守ることに、どんなひみつがあるのか見ていこう。

2本の管をつぶさないこと

管があるということは、春になって気温が上がればいつでも樹液が流れることができるということだ。樹液が流れれば芽は発芽し、葉を広げながら枝になり、花の蕾がぶどうになっていく。

逆に、1度管をつぶしてしまえば、その枝には2度と樹液が流れることはなくなる。つまり、その部分は2度と発芽しないbois mortボワ・モー(枯れた部分)になってしまうのだ。

管がつぶれる原因

剪定の切り口の位置がわるいと管がつぶれてしまう。切り口から乾燥しはじめ管の組織にまで乾燥が達してしまい、最終的に管が樹液をとおせなくなる。

それをさけるには、剪定の時に必要ないと判断した枝を必要ない部分から切り落とすのではなく、その部分より遠いところで切り落とすことが重要だ。少なくともその枝の直径の長さだけ遠くで切ることで、乾燥が中まで入り込むのを防ぐことができる。

また、管があってもその先に芽がないと樹液はとおらなくなり、つぶれてしまう。枝を生かしておきたいなら、その先に芽が必要ということだ。

なぜなら管は樹液をとおすためにあり、樹液は芽(と、芽が生長した器官)を生長させるためにあるからだ。

bois mortボワ・モーとcrochet de rappelクロッシェ・ド・ラペル

bois mortボワ・モー(枯れた部分)があっても、1本のぶどう樹としては生きているし生長もし、毎年充分なぶどうを恵んでくれる。

でも、ボワ・モーができないように剪定することで、そのぶどう樹の寿命をあきらかに長くすこことができる。

それは、管がgourmandグルモン(徒長枝)を発芽させるとき、ボワ・モー(枯れた部分)が物理的に邪魔しないおかげで幹のどんな場所にも生えてくることができるからだ。

理想的な位置に発芽したグルモン(徒長枝)であれば、そのぶどう樹のcrochet de rappelクロッシェ・ド・ラペルになることができる。

ぶどう畑で生きるヴィエイユ・ヴィーニュ(ぶどうの古木)にとっての実質的な若さがクロッシェ・ド・ラペルであることは、ギュイヨ・プーサール仕立てのぶどう樹にとってもいえることだ。

人間の寿命をこえても樹齢など関係なしに生長し、ぶどう房を恵み続けることができるぶどう樹を仕立てるには、bois mortボワ・モー(枯れた部分)をなるべく作らないことが肝心なのだ。実際にぶどう樹を再生させる方法も見ていこう。

2本の管の太さのバランスを保つこと

ぶどう樹には樹液がとおればとおるほど管も枝も太く丈夫になるという性質がある。樹液がとおる量は、その枝がその先にもつ枝の本数・葉の枚数・実の数によって増減する

たとえば、クロッシェは2本、バゲットは4本以上のsarmentサルモン(新梢)をもつから、葉やぶどう房の数も倍以上の違いがある。

すると、クロッシェにとおる樹液の量と、バゲットにとおる樹液の量におおきな違いがでてくる。

仮に、左側に伸びる枝に毎年クロッシェしか作らなければ、数年後、左側の枝の管は、右側に伸びるバゲットしかつくからなった枝の管に比べて細いものになってしまうということだ。

そこで、2本の管を最大限に太く丈夫にするために考え出されたのが、毎年の剪定でクロッシェとバゲットの位置の交換するという方法だ。

交換することで、イメージした樹のなかの2本の管は同じように太る。ぶどう樹の実質的な若さであるクロッシェ・ド・ラペルを恵んでくれる確率も、左右で差がなくなる。

また、ぶどう樹の左右のバランスがとれるから、片側に傾いて生長するリスクを抑えることもできるのだ。

では、次のページで実際にギュイヨ・プーサールの剪定方法に則ってぶどう樹を仕立てていこう。