55. labourラブール(耕起)の目的

labourラブール(耕起)とは、ぶどう畑の土を耕すことだ。

前回は「土を耕す」の「土」とはなにかを見てみた。3つの層が重なるうちの最上部の土の層である、solソル(土壌)を耕すこということ、また、土は5つの構成要素が相互に作用しながら成り立っているということだった。

そして今回は「土を耕す」の「耕す」とはどういうことなのかを、くわしく見ていきたい。

おおよそぶどう畑でのlabourラブール(耕起)というのは、犁など専用の道具をつかって土を掘りかえしたり、ほぐしたりすることで、ぶどう栽培により有利な環境をととのえることだ。

土を掘りかえしほぐすことが、土を構成する要素である無機物・有機物・水分・空気・生き物にどんなよい変化をもたらすのだろうか。よい変化、それは目的でもある。

ラブール(耕起)の目的

土のなかでは生き物が呼吸しているため、酸素の濃度が大気中よりも低くなっている。そんな土を掘りかえしほぐすことで、酸素をたっぷり含んだ空気と入れ替えることができる。

また、ほぐされることで土にあらたに隙間ができ、豊富な空気と雨由来の水分を蓄えることができる。

そのような新鮮な空気や充分な水を土中の微生物が得ることで、有機物の分解が促進される。

前回や追肥のページで見てみたとおり、有機物は分解されると無機物になる。イオン化して水とともに根から吸い上げられれば、ぶどう樹をはじめとするその畑で生きる植物の栄養になることができる。

ラブール(耕起)のもう1つの重要な目的が草取りだ

土を掘りかえしたり、ほぐしたりすることで、ぶどう畑に生きるぶどう樹以外の植物の生長を抑えることができる。草むしり機能の道具とあわせてラブール(耕起)することで、ぶどう樹以外の植物を効果的に減らすことが可能だ。

ぶどう樹の幹を隠し、ぶどうの房にとどくまで背を伸ばした植物

草取りをする理由は大きく分けて3つある

1土の養分をぶどう樹に集中させたい

これは、ぶどう畑に生きるぶどう樹以外の植物を、ぶどう樹にとっての競合相手とみなす場合の考え方だ。

植物は光合成によってエネルギーを作り出すことができるけれども、自分では作り出せない栄養素は、主に土から摂取しなければいけない。土中の微生物と共生し、大気中の窒素を取り込むことができる画期的な植物も存在するけれど、ぶどう樹にはその能力は備わっていないとされている。

植物にとっての3大栄養素、N : 窒素、P : リン、K : カリウムをはじめとする必須栄養素は、イオン化し水に溶けて土中に存在している。

だけれども、無限に湧き出してくるわけではなく、これまで見てきたように有機物が微生物によって分解され無機物になり、イオン化して水に溶けてやっと、植物の根から吸い上げられる。

こんなふうに限られた養分だから、ぶどう樹以外にも植物が生きていれば競合すると考えられるのだ。

2ぶどう樹以外の植物が、ぶどう畑での仕事のさまたげになるのを防ぎたい

ブルゴーニュのコート・ド・ニュイのぶどう樹は、baguetteバゲットを地表から40cmの高さに固定する、とても低い仕立てだということはこれまで見てきたとおりだ。

だから、ぶどう樹以外の植物が生長してくると、あっというまにぶどう樹の芽や、ぶどう房のある高さにたっしてしまう。そうすると、ぶどう樹をよく観察しながらするべき摘芽(ébourgeonnageエブルジョナージュとévasivageエヴァズィヴァージュ)などの重要な仕事が妨げられてしまう。

その植物が柔らかければまだいいけれど、棘をたっぷりもっていて、しかもその棘が手に刺さると地味にずっと痛い、抜いてもまたすぐ次の棘が刺さる・・そんな植物だったら、分厚いゴム手袋をしないといけない。

ところがそれでは指でおこなう細かい作業は不可能だ。体感温度40度に達する夏のあいだ、半袖半ズボンになれないというのも大変。

3ぶどう樹の周辺に遮るものがない環境を整えたい

ラブール(耕起)した区画の端に残る草。sarmentサルモン(新梢)と同じ高さまで生長している。
耕起しなければぶどう畑の畝の中でもこうして生長しうる。

ぶどう樹が健康に生長をつづけるために、充分な日光がしっかりぶどう樹まで届くように、風通しがよくなるように、traitementトレットモン(農薬散布)が最小限の量と回数で効果的におこなえるように、ぶどう樹以外の植物の生長を抑える。

ぶどう房がなる高さにまで生長した植物は、光も風も農薬も妨げてしまうかわりに、湿気というぶどう樹にとっての大敵を引きよせてしまう。

次回、目的にあわせたlabourラブール(耕起)のいろいろをみてみよう