対oïdiumオイディウム(うどん粉病)の農薬として一般的に使用されているsoufreスーフル(硫黄)の散布についてみていこう。
soufreスーフル(硫黄)は、agriculture biologiqueアグリキュルチュール・ビオロジック((AB)有機農業)のぶどう畑にも使用がゆるされている。
左の袋がスーフル(硫黄)をベースにしたTHIOVIT JET MICROBILLESという製品。
右の袋はbouillie bordelaiseブイィ・ボルドレーズ(ボルドー液)を粉末にした製品。
この2つは同じ水に混ぜていっしょに散布することができるし、
規定の量を守ればアグリキュルチュール・ビオロジック((AB)有機農業)の畑に使用できる。
スーフル(硫黄)はどのような仕組みで効果がでるのか
オイディウム(うどん粉病)の原因のカビérysiphe necatorエリズィフ(エライズィフ)・ネカトールに対して、スーフル(硫黄)は複数の働きで3つの効果を発揮することができる。
・予防効果 : 原因のカビ、エリズィフ・ネカトールの細胞内で、硫黄がSH酵素阻害してエネルギーを生じさせなくする。ちょうどボルドー液の銅イオンが、mildiouミルデュー(ベト病)原因のカビplasmopara viticolaプラスモパラ・ヴィティコラのクエン酸回路をうまく回らないように邪魔するSH酵素阻害とおなじ仕組み。
・治療効果 : 原因のカビ、エリズィフ・ネカトールのたんぱく質の形成を阻害するので、mycéliumミセリウム(菌糸体)が生長することができない。
・感染源の撲滅効果 : 原因のカビ、エリズィフ・ネカトールの子実体(菌糸体のかたまり)を破壊する。
散布の決まりと方法
純硫黄で換算して1年に10kg/haの硫黄を散布することが許されている。
たとえば上の写真の左の袋、スーフル(硫黄)を80%含むTHIOVIT JET MICROBILLESという製品は、agriculture biologiqueアグリキュルチュール・ビオロジック((AB)有機農業)のぶどう畑に使用する場合、1年に12.5kg/haの使用が認められている。
スーフル(硫黄)の散布には、粉末散布と液体散布の2つの方法があり、それぞれの特徴をいかして使いわけることで、最低限の量で最大限の効果を期待できる。
THIOVIT JET MICROBILLESはどちらの方法でも使用できるので、この製品についてみていこう。THIOVIT JET MICROBILLESは1~8µmの微粒子になった硫黄の粉末だ。
スーフル(硫黄)の粉末散布
粉末散布用の特別な散布機をつかって、硫黄の粉末をぶどうの緑の器官に(とくにぶどう房を中心に)吹きつけける。
風のせいでぶどう樹にたどりつけない粒子は、水に混ぜて散布するタイプの硫黄よりもおおい。そして、ぶどうの器官の表面に留まりにくく、雨に対しての耐久性もひくい。
また、気温10度以上で効果を発揮するけれど、気温25度を上回ると散布された成分がぶどうの葉の表面を焼きつけるリスクがある。焼きつけはぶどう樹にとって有害になりうるから、夕方から夜にかけてなど気温10~20度で、きびしい日光がさしていないときに散布する。
くわえて、粉末散布の場合は他の農薬と混ぜることはできない。・・と、なんだか扱いが厄介な粉末散布なのだけれど、予防効果だけでなくしっかりとした治療効果もあるために年によっては有効だ。
スーフル(硫黄)の液体散布
水に混ぜた硫黄を散布機をつかって、ぶどうの緑の器官に吹きつける。散布中、風の影響を受けにくく、散布されるとしっかりと付着する。
粉末の硫黄のようなしっかりとした強い効果はないけれど、残留期間が長く、雨が降っても残存性が高い。気温15度以上で効果を発揮する。
また、対ミルデューの農薬であるボルドー液と混ぜて使うことができる利点がある。散布機はこちらのページでご覧下さい。
その年の1回目の農薬散布をいつにするか
リスクが高い年も低い年も、い : 葉が7~8枚ひらいたころ、その年のはじめての散布をおこなう。oïdiumオイディウム(うどん粉病)の感染予防のための散布だ。
葉が7~8枚ひらいたころというのは、あくまでも目安。それじゃ遅いという人も早いという人ももちろんいる。展葉していれば1枚でも感染するリスクはあるけれど、それを重要視すると1枚葉がひろがるごとに散布することになってしまう。
また、同じ区画内でも樹齢がことなれば発芽のタイミングもずれるし、その畑の1番生長のはやい芽を基準にするのか、多くの芽の葉が7~8枚開いたころを基準にするのかによってもタイミングがちがってくる。
現実的には、ボルドー液と混ぜて散布されるから、対mildiouミルデューのタイミングでおこなわれる。いくつもの区画を1台のトラクターで回らなければいけないから、気象予報をみながらのやりくりが大切になってくる。
2回目以降の農薬散布をいつにするか
ろ : fermetureフェルムチュール(ぶどうの果粒がふくらんでお互いにくっつく段階)以前
リスクが高い年はスーフル(硫黄)散布のインターバルを短くし、8~9日ごとにおこなう。もしくは降水が20mmをこえるごとに散布するという考え方もある。そしてもしオイディウムの症状がみつかれば、は : floraisonフロレゾン(開花期)の終わりに補足的に散布をおこなう。
リスクが低い~平均的な年は10~15日、または気象予報におうじて必要最小限のsoufreスーフル(硫黄)散布をおこなう。
に : fermetureフェルムチュール(ぶどうの果粒がふくらんでお互いにくっつく段階)以降
リスクが高い年も低い年でも、前回のスーフル(硫黄)散布から、fermetureフェルムチュール(ぶどうの果粒がふくらんでお互いにくっつく段階)までに、
もしオイディウムの症状がみつからなければ、スーフル(硫黄)散布は終わり。
もしオイディウムの症状がみつかれば、ほ : véraisonヴェレゾン(色づき期)の初期までスーフル(硫黄)散布をつづける。
へ : véraisonヴェレゾン (色づき期)
スーフル(硫黄)散布はおこなわない。この段階以降はスーフル(硫黄)を散布しても価値のある効果が期待できない。
オイディウムの症状がでてきてしまったばあい
予防のスーフル(硫黄)散布をおこなわなかったり、予防的散布もむなしく気候条件がととのい症状がでてきてしまったばあいは、はじめて症状があらわれた直後に散布する。
オイディウムにおかされた部分の面積が、その器官全体の10~15%をこえるとスーフル(硫黄)散布の効果はがくっと落ちてしまうからだ。3~5日間隔で、ぶどう房の範囲に重点的にスーフル(硫黄)の粉末散布をする。
このときに、前ページ記載のébourgeonnageエブルジョナージュ(摘芽)とeffeuillageエフイヤージュ(摘葉)が適切にされていると、ぶどう房にまんべんなく粉末散布することができて、効果が期待できる。(エブルジョナージュ(摘芽)やエフイヤージュ(摘葉)は、ぶどう栽培の方針によって質も量もいろいろだ。)
散布についての注意事項
散布する人は、硫黄をじかに触れたり吸い込んだり目に入ることのないように手袋、安全靴・服に、マスクやゴーグルなどの装備を身につけなければいけない。
また、硫黄に限らず農薬を扱う人はかならず定められた研修を受ける義務がある。農薬ごとにことなる危険性や取り扱い方など知るためだ。たとえば散布中に空になったタンクに農薬をいれるかんたんな作業でも、研修を受けなけていないとおこなってはいけない。
くわえて、連続して硫黄のみを散布しつづけるとoïdiumオイディウム(うどん粉病)に耐性がつくリスクがわずかながらあるということだ。
オイディウム(うどん粉病)と硫黄の歴史
もともとoïdiumオイディウム(うどん粉病)の原因のカビ、エリズィフ・ネカトールはフランスにはなかった。
昔のブルゴーニュのぶどう畑にはオイディウム(うどん粉病)は存在しなかったのに、今日これだけ有名な存在になった経緯はmildiouミルデュー(ベト病)とよーーく似ている。
オイディウム(うどん粉病)がフランスで確認されはじめたのは1850年ごろで、アメリカ大陸からイギリスを経由して運ばれてきたと考えられている。
もともとは技術者だったHenri MARÈSアンリ・マレ氏が、硫黄の散布を対オイディウム(うどん粉病)の農薬として正式に発表したのは1856年。
オイディウムにおかされたぶどう樹に対してあらゆる成分を散布してみて、硫黄が効果的だとわかった後もすぐに的確な使用量や散布するのに最適な気候条件をわりだし、この時点で明確に示した。
現在では、硫黄をベースにした対オイディウム(うどん粉病)の農薬は、製法・粒子の細かさの違い・使用方法にあわせた調合をするなど各メーカーがさまざまな製品を販売している。
硫黄はぶどう樹にとって栄養素でもある
植物の三大栄養素であるチッソ、カリウム、リンとおなじように、硫黄も植物が光合成をするためにかかせないから必須栄養素に数えられている。農薬としてぶどう樹に散布された硫黄が地表に落ちても、ぶどう樹の栄養になりうるということだ。