ラブール(耕起)の動力
現在ブルゴーニュのコート・ド・ニュイのぶどう畑のlabourラブール(耕起)は、おもにトラクターで、生産者や区画によっては馬で、まれに人力でおこなわれている。
トラクターは、ぶどう樹の列をまたぎながら前進できるおなじみのenjambeurオンジョンブーに、ラブール(耕起)の器具を装備しておこなう。この器具は目的にあわせてたくさんの種類がある。
馬に器具を牽引してもらっておこなう場合も、どこをどのように耕したいかによってさまざまな種類の器具から選ぶことができる。
ぶどうが植えられている畑は、2つの部分に分けることができる
ぶどう樹が並んでいる列の部分の土 と ぶどう樹の列と列のあいだの部分の土だ。
トラクターや馬でラブール(耕起)する場合、この2つの部分の土は同じ器具で耕すことができない。
なぜなら、ぶどう樹が並んでいる列の部分の土を耕すとき、ふつうの犂を通過させようとするとぶどう樹に引っかかって前進できなくなるか、ぶどう樹をなぎ倒してしまうからだ。だから、それぞれの部分に対してに専用の器具をつかう。
ぶどう樹が並んでいる列の部分の土のラブール(耕起) 水色の範囲
intercepsアンテルセップは、
ぶどう樹とぶどう樹のあいだの土を耕すことができる。
débuttageデビュタージュ(畝崩し)のところでも登場したこの器具、今回はビデオを撮ってみた。
ぶどう樹を傷つけないように樹をさけながら、樹の際ぎりぎりまで耕すことができるのは、細い棒がセンサーのように働くからだ。ぶどう樹からその棒がはなれると、直後に鎌が水平に振れる。
この鎌を沈める深さによって、掻き出す土の量をかえることができる。そして、鎌によってぶどう樹以外の植物が刈られるというしくみだ。
アンテルセップの装置は、センサーである棒と、実際に土や草に触れる鎌で構成されている。その前や後ろにはbinageビナージュの犁がいくつか装備されていて、アンテルセップが掻き出した土をよりよくほぐしたり、均したりしている。
ただ、鎌が一方向にしか振れないから、ぶどう樹の1列を両側から耕すには、トラクターが往復する必要がある。そして、鎌が入らないところは人が鍬をふるって耕すことになる。
ぶどう樹の列と列のあいだの部分の土のラブール(耕起) むらさき色の範囲
griffageグリファージュは、
ぶどう樹の列と列のあいだの表土を爪でひっかいて、土をほぐし空気を入れたり、地面を平らにする。
また、ぶどう樹以外の植物が中程度に繁栄しているくらいなら、除草の効果も期待できる。だから、ジャングル状態になる前に定期的なgriffageグリファージュが必要だ。
これらの爪を土に浅く沈めて、←こっちに進んでいく
こうして地表で固まった土をほぐして、その土がもともと持っている物理的な特徴をとり戻させると、短時間に大量に雨が降っても土がさっと吸収できる。
逆に、土が強固に踏み固められた状態だと雨が中に入っていくことができずに、地表に小川をつくり低い方へ流れていってしまう。
しかも、この小川が地表からわずかずつ土を下流へと運んでいく。つまり、ぶどう畑の表土が、雨によって浸食されてしまう。貴重な土をうしなわないためにも、ラブール(耕起)は効果を発揮する。
binageビナージュは、
グリファージュ用の爪をbinageビナージュの犁につけかえて行う。
ビナージュの犁にはいくつか種類があるけれど、みな平らに、歯先が地面と平行になるように据え付けられている。
地表から4~5cmの深さに沈め、→こちらに進むことで、根を効果的に切り除草する。そして爪にくらべて幅が広いため、土をよりいっそう積極的にほぐすことができる。
アンテルセップの装備でぶどう樹とぶどう樹のあいだを耕すときに、内側にこのビナージュの犁を装備することで、2つの目的を同時にクリアし、相乗効果もきたいできる。
刈られた草は地表に残されたり、土の浅いところに犁込まれれば、土中のさまざまな生き物によってさっそく分解されて土へかえるからだ。
耕す区画に広がる植物の種類 と 草取りの器具の 相性
ルリハコベや、ヒルガオといった植物のつるが絡まって、犁がうまく機能しなくなるリスクを考慮して適した器具を選ぶ。
ぶどう樹以外の植物の種類は、1つの区画で次々と様変わりするわけではなく、毎年おおまかにいくつかの同じ植物が大量発生したり、控えめに発生したりする。
これらの植物の種子は働き手の靴の裏、トラクターについた土によって運ばれるためか、離れた区画でも同じドメーヌの畑に同じ種類の植物が分布していることが多いように思われる。
隣り合った区画でもドメーヌが違うと、同一人物が立ち入らないから、種子が入り込みにくいのだろう。まったく違う植物群が広がっていて、おかげで離れたところから眺めると、畑の色が違って見える。
そして、その区画のなじみの植物でも、年や時期ごとにものすごい勢いで生長して分布が拡大したり、縮小したりするので、ああ、この気候がこの植物にとっていちばん快適なんだなぁと思う。年によって繁栄する植物が違うと、この違いがぶどう房にはどんな違いをもたらすのだろうと楽しみになる。
ラブール(耕起)の時期
labourラブール(耕起)は春から夏にかけて3~5回、その年の気候条件に応じておこなわれる。とくにトラクターや馬でのラブール(耕起)は、7月の終わり頃には終え、それ以降は人力での鍬にきりかえる。
しかし、8月に雨が多くぶどう樹以外の植物がひじょうによく育つ年は、まれにもう一度トラクターや馬にたよる場合がある。
ラブール(耕起)のタイミング
labourラブール(耕起)は土が乾燥している時におこなう。そうでないと土の中の空気の入れ替えという目的が果たせないからだ。
またラブール(耕起)は、これまでのページで見てきた春夏のぶどう畑の6つの仕事と並行しておこなわれる。ébourgeonageエブルジョナージュとévasivageエヴァズィヴァージュ(2種類の摘芽)、traitementトレットモン(農薬散布)、relevageフルヴァージュ(新梢の誘導)、accolageアコラージュ(新梢の固定)、rognageロニャージュ(摘芯)、そしてlabourラブール(耕起)だ。
並行するとなると、どの仕事を先に行うかが重要になる。限りある職人とトラクターを、特徴がことなる複数の区画に組み合わせていく。
その年の気候条件とその近日中の天気で、その区画のぶどう樹の生長、土壌の乾燥具合や植物の繁榮加減などが変化する。それらの状況と照らし合わせて、それぞれの仕事が最適なタイミングでおこなわれることが大切だ。
次回はlabourラブール(耕起)のリスクを見ていこう。ラブール(耕起)は必要なのだろうか。