21. 剪定の時期

“Taille tôt, taille tard, rien ne vaut la taille de mars”とは、ブルゴーニュのtailleタイユ(本剪定)の時期についてよく言われるフレーズ。

“早めにする剪定も、遅くにする剪定もそりゃあ利点はあるだろうけど、3月にする剪定に勝るものはないよ”・・と訳せる。

気候が変動する昨今、例外的な気温の推移も多い。だから、このフレーズから読み取れる最も重要なことは”3月”ではなく、季節のうつろいが剪定の質に関係しているということだ。

日本語で「剪定」というと、どの季節のものでも樹へ鋏を入れること全般を指すので、tailleタイユを冬の本剪定、夏に行うrognageロニャージュを摘芯として書いています。

早すぎる剪定の欠点

ブルゴーニュの伝統に従って仕事をする生産者は、1月22日のヴィニュロンのお祭りSaint Vincentサン・ヴァンサン以前には決して剪定をはじめない。

1月22日以前の剪定は1946年2月8日の行政からの命令、1944年3月15日と1956年9月17日の大臣の命令によって規制されるほど厳しい決まりだった。現在の法規には記されていないが守っている生産者がいる。

では、1月22日以前ではどうして早すぎるのか。

ぶどう樹は寒い冬を越すために、枝が乾燥によって死なない程度ぎりぎりまで、水を幹や根へ下ろす。こうすることでぶどう樹内の糖度があがり、その分凝固点は下がる。ぶどう樹は寒さからこのように自らの体を守っている。

もしみずみずしい状態の枝に剪定の切り口をつくり、直後に氷点下を迎えたら寒さで細胞の水分が凍り、組織が破壊されて枝は死んでしまう。

ぶどう樹の剪定。死んでしまった枝の断面
死んでしまった枝の断面

 

ぶどう樹の剪定。健康な枝の断面
こちらは健康な枝の断面

 

早すぎる剪定を恐れている人が想定するリスクは、たとえば11月という樹液が下りきっていない可能性がある時期に、のこしておきたい芽の近くまで枝を切り、その直後に強い寒気がきたら枝の水分が凍結して枝も芽も死んでしまうことだ。

そういった被害を回避するために、樹液が下りきりしかも強烈な寒さがすぎる頃の1月22日が目安とされてきた

また1月22日以降でも、気温が-3℃を下回れば剪定はしない。気温が低いと、切った瞬間にボンっといって枝がはじける。水分が膨張して組織が砕かれる音だ。

遅すぎる剪定の欠点

それでは逆にタイミングを逃した遅すぎる剪定には、どんな欠点があるだろうか。

遅すぎるというのは、冬が終わり気温が上がってきてしまうことだ。陽気のいい日が続けば、あっという間に発芽しはじめてしまう。でも剪定から発芽までの間に、まだ2・3仕事をしなければいけない。ちょっと待ってーと言っても、聞いてくれるぶどう樹なかなかいない。

ぶどう樹の剪定の切り口から、樹液が溢出する

この日の最高気温は8℃。樹液がにじみ溢れてこぼれ落ちる。休眠していたぶどう樹か目覚めた合図だ。強い風もなく太陽にぽかぽかに暖められて、ぶどう樹の黒っぽい樹皮が温度を溜めていくのがわかる。

もうすぐすべてのぶどう樹を切り終えられそうだという剪定の終盤に、この樹液の溢出が見られるくらいがちょうどいい。樹液が流れ出るおかげで、ぶどう樹に侵入しようとするカビを防げるからだ。

年によって暖かくなるタイミングかまちまちだから
“Taille tôt, taille tard, rien ne vaut la taille de mars”
“早めに剪定するのもまぁいいし、遅れてする剪定もしょうがない、
でもやっぱり3月の剪定に勝るものはない”なのだ。

リスクを回避しながら、したい時期に剪定をする

ところが今日のブルゴーニュの畑では、11月の中頃に剪定を始める生産者を見かける。多くのドメーヌにとって、剪定は3月どころか1月22日にせーのではじめて終わるような仕事ではない。畑の広さに対して剪定の技術を身につけている働き手は意外に少ないからだ。

そこで考え出されたのが、1本の樹を2度に分けて剪定する方法
1度目: prétailleプレタイユ(前剪定)
新しいクロッシェやバゲットを決め、それ以外の不要な枝を切り落とす。
クロッシェをバゲットと見分けられるよう、ほんの少しだけ枝の端を切る。
1月22日までは、この作業を行う。

2度目: taille deuxième passageタイユ・ドゥズィエム・パッサージュ(2回目の剪定)
クロッシェとバゲットに残す芽を数えて枝を切り、剪定を完成させる。
1月22日以降はこの作業を行い、またプレタイユ(前剪定)が終わってないぶどう樹には下記のtaille directeタイユ・ディレクトを行う。

手前の樹が2回目の剪定が済んだcordon doubleコルドン・ドゥーブル。後ろに見えてる樹は2度目を待っている1回目の剪定済の樹。

こんなふうに2度に分けて剪定すれば、クロッシェやバゲットになる枝にとっては1月22日以降に剪定しているのと同じだし、切った枝の処理も効率的にできるという考えだ。

一方、1度で剪定を終わらせることを、taille directeタイユ・ディレクト(直接剪定)と呼んでいる。現在はその日の気温を見ながら、この方法で早い時期から切り始めるドメーヌも増えている。毎年こうして早期に剪定を終わらせてるけど、何も問題ないよ?とのこと。ちょ、この記事の意味!!まぁ、ビバ多様性。

おまけ

5月11日にまだ剪定されてない畑を見つけた。笑

5月11日にまだ剪定されてない畑

ぶどう樹もそれ以外の草も、芽という芽が発芽してる。冬の間に仕事をしないとこんな風になるんだと感動した。ちなみにこの畑はドメーヌ所有ではなくて、個人の自宅消費用のワインのための畑だと思われる。