こちらは落葉したguyot simpleギュイヨ・サンプルの樹。acrotonieアクロトニーによる生長の差が顕著に残っている。右側1本を除く4本の枝が、太さも長さも充分でないことから、樹勢が低下しすぎていると判断した。
今回の剪定でもギュイヨ・サンプルに仕立てたかったが、新しいbaguetteバゲットにふさわしい枝がみつからない。この樹が充分な樹勢を取り戻せる剪定をするにはどうしたらいいか。それはぶどう樹の生理学が助けてくれる。
【復習】acrotonieアクロトニーとは
この写真は、暖かくなり芽がほころんできた頃の枝。注目したいのは芽の大きさだ。4から1へとみごとに順序よく高い方にいくに従って芽が大きく膨らんでいる。
これが先日ご紹介したacrotonieアクロトニーという性質だ。1の芽は2よりも、2は3よりも先に発芽がスタートしたから、この段階でより大きい姿をしている。
でも通常はこれから春夏にかけて、ぶどう樹は爆発的なスピードと活力を持って生長期をむかえるから、アクロトニーによるこれらの芽の生長度合いの誤差は相殺される。
ところが、樹勢が低下している樹はすべての枝を均等に生長させることができず、より幹に近い枝が細く、成熟できないまま生長期を終えてしまう。
成熟していない枝はバゲットになることができない。ではどうしたらいいか。
ぶどう樹の活力と生長させる芽の数を釣り合わせる
わたしたちは既にいろいろな剪定を見てきたので、この重要な視点をもっている。つまり、もし樹勢が低下してしまったぶどう樹があったら、その樹のもっている活力にあわせて芽の数をのこしてあげればいい。
いつものギュイヨ・サンプルならクロッシェに2芽、バゲットに4芽の計6芽。それを、この年は2つだけクロッシェをつくることによって4芽だけのこす。つまり、次の生長期に4枝だけ恵んでもらうことにする。
下の写真は、去年2つだけクロッシェをつくった樹。新しい立派な枝を3本恵んでくれた。
それに加えて、2つだけクロッシェをつくったおかげで、幹になるべく近いところから枝を恵んでもらえる。クロッシェには2芽しかないからアクロトニーの差が出る余地がないのだ。
そうして2つの旧クロッシェから恵んでもらった4本の枝から、クロッシェとバゲットを1つずつつくる。
こうして、guyot poussardギュイヨ・プーサールに仕立てることができた。
(癖でプーサールにしてしまった。もちろんギュイヨ・サンプルにもできる。)
又は、今年もバゲットをつくらずクロッシェを2つだけ作って、樹勢がもっと安定するのを待つのもいい考えだ。
剪定する人によっては、次のようにcordon simpleコルドン・サンプルに仕立てる場合もある。
剪定前の観察
樹勢の低下以外にも、毎年多くの樹がそれぞれに解決すべき問題を抱えているから、その樹をよく観察することが求められる。
枝の数と質、樹齢、樹の密植度、土の肥沃さ、前回のその樹の収穫量、天気によるアクシデントや、ぶどう樹が被った病害、同品種でもクローンの違い、前年に光合成が健全にできていたかどうかに関すること、(たとえば日照、病害、害虫、適切な仕事など)などなど…これらの二次的な情報を含めながら解決していく。
剪定方法という”型”が混沌に秩序をあたえる
ただ決められた仕立て方に沿って切ればいいというものではないけど、剪定の”型”に当てはめることで、助けられることもある。ぶどう樹はときどき非常に複雑だからだ。
そんなときに、”型”に立ち戻ることで、美しい単純さを見つけることができる。
“型”には先人が観察してきたぶどうの生理を尊重し、うまく利用する知恵が詰まっているから、そこへ複雑な現状を当てはめることで混沌が秩序をもつ。
そんな美しい単純さを見つけると、自分は一人で剪定しているわけではないと気づく。先人の長い歴史と彼らの仕事とともに切っていることを実感する瞬間だ。