8. tailleタイユ(本剪定): guyot simpleギュイヨ・サンプル

先日ご紹介した垣根仕立ての中でも、ブルゴーニュのコート・ド・ニュイで最も一般的な仕立てが、guyot simpleギュイヨ・サンプルという方法。

落葉後のギュイヨ・サンプルのぶどう樹をかいてみた。
これをtailleタイユ(剪定)しよう。

剪定前のguyot simpleギュイヨ・サンプルの図。

guyot simpleギュイヨ・サンプルのルール

・1本の樹に新しくcrochetクロッシェとbaguetteバゲットを、それぞれ1つずつ作る

・ バゲットよりも低いところから発芽した枝をcrochetクロッシェに選ぶ

guyot simpleギュイヨ・サンプルの剪定で、残す芽と切り落とす場所

・crochetクロッシェには2芽、baguetteバゲットには4~8芽残す(バゲットに芽をいくつ残すかは生産者の考えによる)

剪定後のguyot simpleギュイヨ・サンプルの図

クロッシェをバゲットより下に作る理由

ところでギュイヨ・サンプルのルールでは、なぜクロッシェをバゲットの下に位置させると決められているんだろうか。

それは、ぶどう樹の幹が高くなりすぎるのを防ぐため。地面からバゲットまでの、高さ40cmを保ちたいからだ。

この決まりは厳密で、たとえば学校の剪定の試験でこれらを逆さまに切ってしまえば、不合格になってしまうくらいみんなが知ってる基礎の基礎。

これにはぶどう畑の仕事を知る上で重要なぶどう樹の性質アクロトニーが関わっているので、少し詳しく見ておこう。

acrotonieアクロトニーとぶどう樹

そもそもぶどう樹にはacrotonieアクロトニーという、枝の中で幹からより遠い芽が優先的に発芽・生長する性質がある

樹木はその種ごとに強かれ弱かれacrotonieアクロトニーか、逆の性質(幹により近い芽が優先的に生長する)basitonieバスィトニーを現す中で、特にぶどう樹は強くアクロトニーが現れる。

ぶどう樹はどんなに年を重ねても巨樹にはならず、低木に分類される。でも、原種は高い樹の繁る森出身だ。

そんな森の中で地上を這っていても光が得られないので、枝を蔓にして高い樹に巻き付きながら伸びて、葉を広げ光合成のための光を稼ぐ。そして次の春は、その伸びた枝のなるべく高いところにある芽から発芽しはじめる。

つまりぶどう樹は放っておけば幹から遠いところでせっせと生長してしまうのだ。

その血を脈々と受け継ぐ、畑のぶどう樹。そんな生長を剪定なしに見守っていたら、実を付けエキス分を蓄えることよりも、樹を大きくすることにぶどう樹のエネルギーが使われてしまうし、かさばるから密植もできない

だから、ギュイヨ・サンプルでは、幹に一番近いところにクロッシェをつくる

クロッシェは2芽もっているが、それらが生長した2本の枝が、次回の剪定で新しいクロッシェとバゲットになる。

クロッシェの2芽のうち下に位置した芽が丈夫に生長し、次回の剪定で新しいクロッシェになれば、1年の幹の高さの生長を1cm以内に収め、幹を低く保つことができるのだ。

アクロトニーの影響を最低限に抑える

バゲットから発芽した2枝を、次回のクロッシェとバゲットにしないのは、幹の高さを抑える意図とともに、アクロトニーの影響でしっかりとした枝が恵んでもらえない可能性を考慮しているからだ。

というわけで、その樹がどんなvieille vigneヴィエイユ・ヴィーニュ (古木)であっても、理想的な低さにしっかりした枝を2本恵んでくれるクロッシェがあれば、その樹はずっとずううううううぅぅぅっっっっっっっっっっと現役だということがわかった。

このようなぶどう樹の生理をふまえたguyot simpleギュイヨ・サンプルの考え方は、現代のヴィエイユ・ヴィーニュの仕立て方の様々な取り組みに巨大な足跡を残した。今日伝統的な方法として多くの造り手に採用されている。